老人と警官

今日は子どもに話したい小話を紹介します。
子どもだけでなく、教員自身も感化される内容だと思います。

スイスのスタンスという町に杖をついた老人が歩いていました。その老人は、時々しゃがんでは何かを拾い、大切そうに自分のポケットにしまい込むのです。
その老人を、怪しんで付いてくる人がいます。警官です。

老人はそれとは知らず、またしゃがんでは何かを拾い、ポケットに拾い入れます。それを見た警官はすごい剣幕で老人に言います。
「おい、ちょっと待て。お前は今、何を拾ったんだ。」
老人はいきなり現れた警官に驚いた様子でしたが、静かにこう言うのでした。
「いや、別に拾った訳でもないが。」
警官は声を大きくして言います。
「いや、お前は確かに何かを拾った。しかも今日だけではない。昨日もお前が何かを拾っているのを見たんだ。何を拾ったのか、見せなさい。」
老人は微かに笑いながら、こう言うのでした。
「いや、あなたに見せるほどのものでもないのだがね。」

警官はまずます老人を怪しく思いました。
「お前は拾ったものは全て警察に届けることを知らないのか。見せろと言ったら見せるんだ。」と威勢よく怒鳴りつけ、老人のポケットに手を突っ込もうとします。
老人は「それでは」と言って、ポケットから取り出したものは、
数個のガラスの破片でした。

警官は呆気に取られて
「なんだ、これはガラスの破片じゃないか。こんなもの拾って、いったいどうするのだ。」
老人は答えます。
「子どもたちが踏んで怪我をするといけないからね。そして町の通りも汚くなってしまうし。」
老人の静かな態度を見ていると、警官の様子もすっかり変わります。
「あなたは一体どなたでしょうか」
と聞くと、
「私は町外れにある孤児院を開いているペスタロッチというものです。」
警官は急に不動の姿勢をとって、
「おお、ペスタロッチ先生でいらっしゃいましたか。そうとは知らずに、大変失礼しました。どうぞお許しください。」
と礼をして自分の過ちをペスタロッチに詫びるのでした。

ペスタロッチは
「いやいや、こちらこそ失礼しました。」
と礼を返して、また歩き出すのでした。相変わらず、下を向き、落ちているガラスがないかを注意しながら。

ペスタロッチはスイスのチューリッヒで生まれ、スイスの片田舎で孤児や貧困の子などの教育に従事した人です。


ペスタロッチ(1746〜1827)

誰かに見られているから、という損得を同機とせず、身をもって善を実行することの大切さを伝えるのに良い話です。

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