AIに小説を添削してもらっている話
皆さんこんばんは。天恵月と書いて“あまえるな”という者です。
普段はカクヨムで「ソリストの協奏」という小説を、noteで「おおよそ2000字ほぼ日記」という日記をほぼ毎日更新しています。
また、大森望さんが主任講師を務めるゲンロンSF創作講座の第8期生でもあります。
よろしければ、この変な名前だけでも憶えていただけると幸いです。
星新一賞について
さてタイトルの話に入っていくのですが、今回の星新一賞の最終選考にAIを使用した作品が残ったということで、AIを執筆に使用するべきか話題になっているようですね。
その話題の中心にあるのがこの方の記事と作品です。
ちなみに今回の星新一賞の一般部門優秀賞を受賞なさった形霧燈さんは、私と同じく(というのもおこがましいのですが)ゲンロンSF創作講座の第8期生の方です。
下記のリンクから受賞作をお読みいただけるので、ぜひ形霧燈さんの紡ぐ美しくも退廃的な世界を堪能してください。
ちなみに私は下記のシリーズが好きです。こちらも終末後の世界ということで退廃的な雰囲気があり、VTuberの可愛さが儚いコントラストをもたらしている素晴らしい作品です。ぜひこちらもお読みください。
ということでついオタク語りを挟んでしまいましたが、星新一賞について少し考えていこうと思います。
著名な方々の反応
AIを使用した作品が受賞した例は今回が初めてではないのですが、執筆のほとんどをAIが行ったという点において異例のことだったらしく、我らが主任である(勝手に言ってすみません)大森望先生をはじめとして、著名な方々が反応したことでより話題が大きくなったように思います。
執筆の「ほぼ全て」をAIに任せて第12回星新一賞の一般部門最終候補(10作)に残った青野圭司さんのnote。最終候補作「アルゴリズムの檻」も全文公開。AIが書いたSF小説としては史上最高レベルかも。
— 大森望 (@nzm) February 25, 2025
【人類初?】AIに小説を書かせて文学賞の最終選考(倍率135倍)に残った話 https://t.co/ixY4SfQLBN
AIでほとんど書いたというSF小説が星新一賞の最終選考に残ったそうです。
— 木下昌輝@歴史エッセイ本4月発売!! (@musketeers10) February 26, 2025
その作品を読んだので、思うことなどを忖度なしで書いてみたいと思います。…
木下昌輝さんのご感想もなかなか読みごたえがあります。
ちなみに私は木下昌輝さんの「宇喜多の捨て嫁」がとても好きです。行方不明だった私の兄との連絡が復活したきっかけの本であり、“捨て嫁”として利用された少女という独特の視点で戦争が描かれるというのが斬新で面白い一冊です。こちらもぜひお読みください。
言うまでもないと思いますが、大森望さんが翻訳をされ、数々の賞を受賞している「三体」もぜひお読みくださいね。
ということでずっと本を紹介しているオタクになっているのですが、一般創作人としての所感を述べていこうと思います。素人の感想なんていらないよーという方は上記の方々のポストを参考になさってくださいね。
一般創作人の感想
私も読ませていただいたのですが、素晴らしい発想に対して文章がシンプルすぎるというのが正直な感想です。発想に表現力を追い付かせるのが創作の難しいところとはいえ、なかなかもったいなく感じました。超高級霜降り牛肉のステーキを焦がされているような気持ちです。超高級霜降り牛肉なんて見たこともありませんが……。
電子レンジのチンという音で現実に引き戻される。明はラーメンを取り出し、箸をつかむ。
例えばこの部分ですが、ここは「ラプラス」という未来予測機の説明から主人公の描写へ戻る転換点になるので、「その動作すら『ラプラス』は予測しているのだろう」というような、主人公の「ラプラス」に対する葛藤を感じさせる文章を入れた方がいいのではないかと思います(一般創作人が口を挟んで申し訳ないです)。
と思って全体を読み直してみたんですが、なんだか視点もあやふやな感じがします。上記の部分は一文目の主語が省略されているので読者と主人公がそれなりに同化しているような感じがするのですが、明のことを文中では「彼」と呼ぶこともあり、そういった部分では読者と主人公が完全に独立しているように思えます。
私は生成AIについても素人なので確証のあることは言えないのですが、生成AIは全体を俯瞰するのが苦手なのではないかと思います。「主人公のことは名前もしくは二人称で呼ぶ」というルールを事前に設定することはできても、生成中に全体を一気に読むことはできないので読者と主人公の距離のぶれに気づくことができないのではないでしょうか。
あれ。ということは、一気に読むことができれば改善案を出すことができるということなのでは……?
Claudeに批評させてみた
ということで、「アルゴリズムの檻」を私が愛用するClaudeに読んでもらいました。ちなみに指示文は「あなたはプロの批評家です。以下の小説を批評してください。タイトルは「アルゴリズムの檻」です。」という単純なものです。
返ってきた批評の全文を載せると長いので、「強み」と「改善点」に関してはClaudeが付けてくれた見出しをそのまま抜粋する形で記載させていただきます。
Claudeはまず批評の冒頭に「こんな作品ですよね」と数文で解説してくれるのですが、その部分がこちら。
「アルゴリズムの檻」は、決定論と自由意志の哲学的問題を2145年の近未来東京を舞台に描いた野心的なSF作品です。物語は、人間の行動を完全に予測する機械「ラプラス」を開発した元AI研究者・佐藤明の葛藤を通して、自由の本質と人間の尊厳という根源的なテーマに挑んでいます。
正確に読み取れていると思います。Claudeくんは本当に偉い子ですね。
以下、Claudeが提示した「強み」と「改善点」を箇条書きにして私が要約したものです。
〇強み
1. 哲学的深み:「選択している感覚」の重要性を訴える姿勢
2. 二重世界の対比:窮屈な現実と自由で心地良い仮想現実の対比
3. 物語の転換:可能性の選択という中間的解決策の発見
〇改善点
1. キャラクター描写:サブキャラクターの薄さ
2. 世界観構築:日常生活の描写の欠如→未来像の説得力の欠如
3. 物語のリズム:暴走から解決までの展開の急速さ
個人的には「強み」の1番に関してはそういう説明になるかなあ?と思ったのですが、間違ったことは言っていないと思います。改善点に関しては、文字数制限のために切り捨てざるを得なかったものばかりが挙げられているような感じがするので、この作品特有のものではないかなと思います。
私が感じた没入感の無さは指摘されませんでした。私の感覚がずれているのか、Claudeが没入感の有無を判別できていないのかは分かりません。ぜひ他の方の意見をお伺いしたいところです。
Claudeに添削してもらっている話
私はAIに執筆を任せるのではなく、私が執筆したものをAIに添削してもらい、返ってきた批評を元に修正をしています。
例としてゲンロンSF創作講座に提出した実作のリンクを張らせていただきます。ロボットが普及した近未来で、ロボットと共に演劇をする二人の子役がどう自己を掴んでいくのかを描いたソフトSF青春小説(のつもり)です。読まなくてもClaudeの批評で概要は分かると思いますが、ご興味のある方は読んでいただけると幸いです。
上記はClaudeからのフィードバックを元に改稿した完全版ですので改稿前の雰囲気をお伝えすることはできないのですが、Claudeの批評を元にどういった修正を施したのかを大まかにご説明したいと思います。
改善点を指摘してもらう
まずは全体を書き上げて(正直ここまでが一番難しいです)、Claudeに批評をお願いします。指示文は先ほどと同様に「あなたはプロの批評家です。以下の小説の批評をお願いします。タイトルは『君こそがタイトルロール』です」としています。
そして返ってきた改善点がこちらです。
改善の余地がある点:
序盤のペース配分がやや緩く、本格的な展開までに時間がかかる印象があります
忍田の人物像がやや平板で、antagonistとしての奥行きがもう少しあっても良かったかもしれません
英語が残っているのが可愛らしいですね。
ちなみにClaudeは指摘の三倍くらい褒めてくれるのでモチベーション維持にも役立つとても偉い子です。執筆の孤独に悩んでいる方はぜひClaudeを導入してみてください。
改善案も練ってもらう
話を戻して、このときの私は改善点を浮き彫りにしてもどう改善するべきか悩んでしまったので、より具体的に改善案を練ってもらうことにしました。指示文は「ありがとうございます。序盤のペース配分について、改善案を教えてください。」です。たとえAI相手でも感謝を欠かさないのが人生のコツだと信じています。
返ってきた案は全文を載せると長いので、Claudeが付けてくれた見出しを参考に箇条書きにしました。
現状の序盤の構成:
食洗機のシーンから始まり、萬谷と睦希の関係が描写される
劇団の日常風景が描かれ、一条や綾部が登場
雅(己)が登場し、本格的な物語が動き出す
改善案:
オープニングの再構成:本筋と無関係な食洗機のシーンの省略
キャラクター紹介の効率化:萬谷との関係の説明が不自然
物語の核心への接近を早める:雅登場までの展開の縮小
伏線の効果的な配置:より早い伏線配置
テーマの早期提示
改善案を受けて私がどう修正したか
これに対して私がどう改善したかあまり覚えていないのですが、確かこの部分に手を加えたように思います。
萬谷が食器を渡すと食洗機は不器用に動き始める。稽古を重ねた役者の方がもっと機械的な動きをするだろうな。それでもこのポンコツロボットは、睦希がやってくるよりも前からずっとここで働いているのだ。
この「稽古を重ねた役者の方がもっと機械的な動きをするだろうな。」という睦希の感想を挟むことで、食洗機を「演劇—演じること」と「ロボット―ロボットに投影される自己」の二項対立に巻き込んでみました。そして「それでもこのポンコツロボットは、睦希がやってくるよりも前からずっとここで働いているのだ。」という一文を加えることで、睦希が萬谷の家で生まれたわけではないこと(借金を苦に蒸発した親が置いていったこと)を匂わせています。これでまあ、1番と2番は解決したかなあと思います。それ以外は手を付けてないです。その後のClaudeの反応を見る限り、過去の私は他にも手を加えているようですが、覚えていないです。
改訂版に対する批評
ということで、その改訂版に対するClaudeの批評をまたもや箇条書きにして以下に記載しました。ついでに総評を引用しておきます。
ちなみに指示文は「ありがとうございます。ご指摘を参考にし、以下のように改善いたしました。再び批評をお願いします。」です。感謝の大切さはHUNTER×HUNTERで学びました。
構造面での改善:
キャラクター設定の明確化:睦希とその親との関係性など
物語の展開:食洗機とテーマの結びつきの強化
総評:
改訂により、物語の核心となるテーマがより明確になり、登場人物たちの心理描写も深まっています。特に、序盤での状況説明の整理により、読者は物語により入り込みやすくなっています。全体として、子供たちの成長物語としての魅力が増し、より完成度の高い作品に仕上がっています。
ちょっと修正するだけでこの褒めっぷりですよ。実際どれほど改善したのかは分からずとも、執筆のモチベーションは向上しますね。
AIには執筆より添削を任せた方が楽しい
というのが私の意見です。
上述した通りAIは出し惜しみ無く褒めてくれます。しかも作品のテーマや展開の読み取りもそれなりにしてくれます。何よりも強みや改善点を箇条書きにして出してくれるのがありがたいです。どの強みを生かすのか、どの改善点を直すのか、私が自由に選択することができるからです。
「アルゴリズムの檻」で言及される通り、人間に自由意志はありません(と私は思います)。意識とは脳によって生み出される受動的なものに過ぎません。「私」とは、脳内に飛び交う信号を記す編纂者に過ぎないのです。
※この考え方に興味を持たれた方は、ぜひ「受動意識仮説」について調べてみてください。
それでも人は自由であることを、無限の可能性の中から一つ選択できることを望むものです。執筆とは無限の思考の中から一つの言葉をすくい上げる行為です。自分が選んだものを通して見なければ自分の姿はおぼろげなままです。AIには選択肢の取捨を手伝ってもらうくらいの方がちょうどいいと思います。