懲りない凶悪犯(モンスター)はどこへ行く ~横浜バス運転手殺害事件・アクリフーズ居座り事件・東海大医学部附属八王子病院放火未遂事件~
今更ながら新年一発目がこの時期までずれ込むとは思ってもいませんでした。あけましておめでとうございます(激遅)。
昨年中も相変わらず物騒な事件が続きましたね。死刑が考えられそうな事件だと愛媛の電磁波男、千葉の連続殺人事件、それ以外でも東京都内で起きた電車内の殺人未遂……、上げればキリがないですね。コロナ禍の閉塞感が凶行へと駆り立てるのでしょうか。
ただ、なんだかんだ事件直後は注目されても裁判の時には忘れられ、そのうち人々の記憶から消えていくと思います。ということで今回は、事件直後は注目を浴びたけど裁判のころには全然注目されず、結果が重大でも今となってはなかなか語られない事件を起こしたとある人物について紹介していこうと思います。
さて、年が明けて2021年1月27日、ふじみ野市で母親の担当医を人質に立てこもったうえ猟銃で射殺するという凶悪事件が起きたのは記憶に新しいかと思います。この時、寝たきりの親の年金で生活する中高年がいるということと同時に、前年に起きた北新地の心療内科放火事件と合わせて患者による医師襲撃事件という面もクローズアップされていました。そして、その時、「2014年には、『東京都内の大学病院(東海大医学部附属八王子病院)に火炎瓶15本投下』という、運が悪ければ大阪府のクリニック放火事件を超えるレベルの死者が出かねない事件が発生している」と、以前にも患者による病院への襲撃事件があったことが記されています。
実をいうと前述の八王子の事件を起こした男は、北新地のT容疑者と同様、以前にも重大事件を起こしていました。そんな彼の犯罪史を見ていこうと思います。
①横浜バス運転手殺害事件
横浜市内で会社員をしていた宮嶋伸治(仮名)は、90年代前半のころ、同い年の市営バス運転手をしていたIさんと知り合い、結婚を視野に入れて交際をしていていました。しかし、94年の春ごろから二人の関係はこじれ始めます。この年の5月中旬ごろには、宮嶋がIさんの母親に「娘を市バスに居れんようにしてやろうか」と脅しの言葉を吐いていたように、二人の関係はかなり悪化していたようで、5月21日の夕方、Iさんが別れ話をしに宮嶋の住むアパートに来たところ、激高した彼に首を絞められて殺害されてしまいました。
その後、宮嶋はIさんの母親に対する脅迫罪で逮捕されたのち、Iさんの殺害を自供。彼の供述通り横浜市内の空き地にベニヤ板をかぶせられた状態でIさんの遺体が見つかりました。翌年の裁判では脅迫罪については否認したものの退けられ、殺人・死体遺棄・脅迫の罪で懲役12年の刑を受けその後確定(求刑は懲役13年)。今だったらストーカーやDV関係の事案は罪が重くなることから若干軽すぎるように見えますが、当時は有期刑の上限が20年であったことも併せて考えると、この量刑自体は決して温情判決というわけではなさそうですね。
その後出所した彼でしたが、刑務所での反省と贖罪の日々はなんだったのか、またしても事件を起こしました。
②アクリフーズ居座り事件
2013年12月、アクリフーズ群馬工場で製造された冷凍食品から高濃度の有機リン系農薬である「マラチオン」が検出されるという事件が発生しました。年が明けた1月に従業員の男が逮捕されましたが、自主回収の際にプライベートブランド商品が多数あったなどことから混乱をきたしていました。
そんな中、従業員の男が逮捕された翌日、一人の男がアクリフーズ本社に一本の電話をかけました。「農薬混入の可能性がある商品の一覧を送ってこい」男はそう要求したものの、電話に出たアクリフーズ社員は拒否。年明けには新聞やWEBサイト上に商品リストを掲載するなどして十分に周知したという認識があったことからか、それもだがわざわざ商品リストを取り寄せる人間はリコール制度を悪用して金銭をせしめようと意図があるという偏見があったのか。詳細は不明ですがこの男の要望を断りました。
翌27日、東京都江東区にあるアクリフーズ本社の受付へと昨日の電話の男が現れました。「電話の対応が悪かった。上司を出さんかい」と社員に要求し居座ること2時間、最終的にその男は不退去罪で現行犯逮捕されてしまいました。そう、その男こそ当時八王子市内でタクシー運転手をしていた宮嶋です。
この事件では結局重大な処分は受けなかった模様ですが(おそらく不起訴と思われる)、前回のバス運転手殺害事件と異なり全国区で相当の注目を浴びていたことから、実名報道がされそれがインターネット上で拡散されることになってしました。さらには隠しておきたかったであろう殺人前科も掘り起こされることに……。その後、彼は弁護士を雇って掲示板に殺人前科を書き込んだ人物たちに対するIPアドレス開示請求を行ったようです。本筋からは若干それますが、基本的に匿名掲示板上での名誉棄損に対する賠償請求の場合は、掲示板運営者にIPアドレスを開示するよう求めて訴訟をした後、管轄のプロバイダに発信者の開示請求(訴訟)をし、さらに発信者に対して損害賠償請求をするという流れになりますので、まだこの段階ではまだ名誉棄損を行った人物の特定にすら至っていません。ただ、2つ目の発信者情報が殺人前科を持つ人間に対して開示されるというのはさすがに怖すぎませんかね……。ちなみに、IPアドレスの開示自体も訴状の不備のせいか結局されていなかったようなので、実際は彼の元に個人情報が行くことはなかったと思われます。
③東海大医学部附属八王子病院放火未遂事件
前の事件で再びの懲役は免れた宮嶋でしたが、今度は自分が入院した大学病院に対し不満を募らせます。その年の10月に東海大医学部附属八王子病院に入院した彼ですが、退院間際に「シャワーの順番が遅かった」、「もっと俺の待遇を良くしろ」と文句を職員に垂れ、その後も通院していた際に「あいさつをしっかりしろ」「患者に丁寧に接しろ」と不満を並べた意見書を病院に提出していたようでした。その後11月22日、午前中に同病院で診察を受けた彼は正午前の午前11時45分、持ってきた発煙筒、ガソリン入りのペットボトルと火炎瓶を階段から4~7階の各廊下めがけて順次投げ込み、次々と火をつけて逃走していきました。当時病棟内には300人以上の患者が入院しており、幸いにもスプリンクラー等の消火設備によって無事鎮火し負傷者も出ませんでしたが、一歩間違えば京アニや北新地の心療内科のような大惨事になっていたことでしょう。
その後彼は11月26日に少し離れた千葉県警市原警察署へ出頭し身柄を拘束されました。この時、なぜ離れた市原で出頭したのか、捜査官との雑談に応じる一方で事件については黙秘を続けるのか、名字が宮嶋から園崎(仮名)に変わっていたのかと多数の謎があったもののそのあたりは明らかにはならず。3年後の2017年12月に懲役7年の求刑に対して懲役6年の判決を受け、その後確定したものと思われます。
未決勾留日数がどれほど算入されたかはわかりませんが、逮捕から裁判までが長いことを考えるともしかしたらもう彼は社会復帰を果たしていることも考えられます。長い服役生活は彼を更生へと導いたのか。それともただ社会に対する憎悪を募らせただけになったのかはわかりませんが、50代半ばとなった彼が第4、第5の事件を起こさないことを祈りたいですね。
参考文献
※被告の実名が載っている一部資料についてはURL等を省略しております。
PRESIDENT Online「寝たきりの親にパラサイト」訪問診療医射殺事件にちらつく"8050問題"家庭の末路
https://president.jp/articles/-/54281?page=1
https://president.jp/articles/-/54281?page=2
https://president.jp/articles/-/54281?page=3
読売新聞1994年7月9日朝刊「横浜市バス女性運転手失跡 交際相手を殺害容疑で逮捕 遺体発見」
朝日新聞1995年5月16日朝刊「元会社員に懲役12年判決 横浜のバス運転手殺人で地裁/神奈川」
朝日新聞2017年12月9日朝刊「病院放火未遂、懲役6年判決 地裁立川支部/東京都」
アクリフーズ リコール商品リスト(Webarchiveより)
https://web.archive.org/web/20160626181534/http://www.aqli.co.jp/wp-content/uploads/2014/01/news_20140102_1.pdf
唐澤貴洋Wiki「開示」https://krsw-wiki.org/wiki/?curid=2942
唐澤貴洋Wiki「パカ弁」https://krsw-wiki.org/wiki/?curid=1002
産経新聞「東海大病院放火犯は『モンスターペイシェント』だった…不満したためた『意見書』の“中身”」
スポニチアネックス「アクリフーズ社に居座り 不退去容疑で男逮捕」
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