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ストーリー作法の基本⑥”テーマ”を意識する必要性(テーマがなければ長編は作れない)

 この連載の第二回、第三回で、どこにでもいそうな主人公に対して受け手(読者や観客)が共感を抱くようになるための、構成上の技術に触れました。受け手がプロットからストーリーを再構成し、さらにそのストーリーを主人公に対する評価が次第に肯定的になるような「物語内容」として受け止めるよう仕向ける、そんなプロットの構成術です。
 しかし、これだけでストーリーを完結できるのは、小説なら原稿用紙20枚か30枚の短編まで、映画なら30分程度の短編まででしょう。最初はこれこれだと思った主人公が、他の登場人物達との相互関係を通じて、実は思いもよらなかった魅力、能力、要するに長所を持っていることが判明する(或いは欠点を自覚して視野が広くなる)、そこで終わるタイプのストーリーです。
 このタイプの短編を鑑賞する受け手の中で起きている「共感」の原因は、主人公の潜在的な長所や変化の可能性という、当初知らなかった性質に対する賛同です。要するに、最初は駄目な奴だと思っていたが、「見直した」ということです。

 このような、「共感できる」主人公や準主人公的な登場人物を短編の世界から長編の世界に移すために、作者は何をすればよいでしょうか。彼らに具体的な目標と強い意志を与えるのか? それとも、「予期せぬ出来事」に直面させてそこからの活路を見出させようとするのか? 或いは、あれこれのジャンルの登場人物やストーリーから、主人公の目標や「お決まりの」シチュエーションを借りてくるのか?
 実は、ある要素が足りなければ「どうやってもダメ」なのです。リストラされた善人の中年初心者VーTuberやもてない誠実な男子高校生を、共感できるように提示することはできても、何のためにそうするのかを決めていなければ、先の展開はありません。ファンタジーやSFの奇想天外なシチュエーションを用意したところで、彼らはうまく動いてくれません。彼らがやはり駄目な奴で主人公に相応しくない人物だからではなく、作者がストーリーの向かう方向性を予め決めていなかったからです。

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