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【日常にアルプス_2月2日】信州移住5年目
Good Morning Alps!
おはよう伊那谷。
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2025年2月2日 日曜日
2021年2月1日午前8時半、私は伊那谷にやってきた。
大阪からの引っ越しで、クルマがまだなかったので、前日に新幹線から乗り継いだ中央本線の塩尻行き最終列車で移動し、塩尻駅前のホテルに泊まった。翌朝、飯田線で伊那市駅へ。伊那市駅からはタクシーで伊那市役所へ。施設課の方から市営住宅の鍵を受け取り、再びタクシーで10km離れた伊那市高遠へ。
市内を走るバス便があるとはいえ、時刻表と路線図を見て「無理じゃん」とすぐに悟った。想像していた以上に公共交通機関は不便すぎた。不便というよりも、ニーズがないのだなと感じた。初めての道をメーターを見つめながら東に向かい、ナイスロードという名の沿線に何もない「何がナイスなんすかね?」と思うようなまっすぐな道を進むと、この先に南アルプスがあるなんて嘘で、本当は何もない果てに向かっているんじゃないかと思った。なんでこんなところに来たんだろう。麗しの南アルプスは全然見えなくて、色彩のない山と枯れ木ばかりだ。
高遠に到着したら、すでに駐車場でトラックが待っていた。いそいで鍵を開けて荷物の搬入に立ち会い、あっという間に部屋は段ボールだらけになった。正直気が滅入っていたけれど、保育園児が不安になるといけないから「思っていたよりひろ〜い!」「日当たりいい〜!」「こっちにも部屋〜!」とはしゃいで見せた。「ベランダがあるよ〜!」と外に出ると真冬の空気は容赦なく冷たかった。置き場がなくてベランダに数時間置いていたベンガレンシスとオリーブはその後に枯れた。ベランダの端から身を乗り出すと中央アルプスが見えて、私はようやく少し明るい気持ちになった。子どものリュックからシャボン玉を出してベランダから二人で吹いた。
住む場を変えてすぐにハッピーな日々が始まるわけではないと知っていた。だから淡々と生活を始めた。
あ、そうだ、転入当日の夕方からすぐ出張が入っていたんだった。荷解きする間もなく、午後にはまたタクシーを呼んで伊那市駅まで戻った。ナイスロードを逆に戻ると中央アルプスが見えた。このあたりからは南アルプスは近くの里山に遮られて見えないことも知った。「伊那市の西側に上がれば、南アルプスがきれいに見えますよ。特に夕方は素晴らしいです」とタクシーの運転手さんが言った。ふーん、とまだ私は半信半疑だった。
4年が過ぎた今、私は伊那谷の西山の麓に家を建て、あの日きれいだと聞いた南アルプスを眺めている。私の伊那谷暮らしは、5年目を迎えてようやく落ち着いてきたように思う。あの日の不穏な気持ちをいつまでも忘れたくない。
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