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創作童話 ノンスケのサーカス 8/12

 次の日、てっちゃんのお母さんはパートが休みなのか、なかなか出かけない。        それどころか友だちのおばさんたちが、何人も遊びにやってきた。
 声がたくさん重なり合って、えんの下まで聞こえてくる。
「あーきょうはどこへも行けないなぁ」
 ぼくがあくびをして、ねようとした時だった。ひとりのおばさんのかん高い声が、ぼくの耳にとびこんできた。
「きのうね、わたしがふみきりの前で車にのってまっていったら、子どもがとびだしたのよ。
そうしたら犬がとび出してきて、なんとその子をひきずってたすけたのよ。かんどうてきだったわ!」
「まぁ!ゆうかんな犬もいるのね」
「ところが、まわりにかけよった人たちに、かみついているとかんちがいされて、おいはらわれていたわ。かわいそうだったわよ」
 ぼくは心の中で ふふーんと思った。
「そうかあ。ぼくのしたことは 〈ゆうかん〉なんだ」
 
 きょうは朝から はい色の雲が空いっぱいに どんよりとしていた。
 てっちゃんのお母さんは、せんたくものをのき下にほしていた。
 ぼくは、早くでかけてくれないかなぁと せんたくものがハンガーにいっぱいになっていくのを見ていた。
「ではノンスケ、おるすばんおねがいね」
 ようやくてっちゃんのお母さんがでかけた。
 きょうはパートの日だから、しょうてんがいはとおれないぞ。
 てっちゃんのお母さんは、しょうてんがいのクリーニングやさんにいるからだ。
 ぼくは、うらどおりをぬけて 病院の白い建物のわきを歩いていた。
 ここは人どおりは少ないけれど、道のわきに大きなUじこうがあって ぼくにとっては歩きにくい。
 その時だった。
 カランランラン!
 何かがころがって おちる音がした。
 道の先を見ると、おじいさんが Uじこうのわきに ひざまづいているのが見えた。
 ぼくが近よって見ると、ちゃ色のステッキがUじこうにおちていた。
 おじいさんが手をのばして ステッキをとろうとしたが、とてもふかくて手がとどかない。
 おじいさんは、ぼくに気がついて こまったように笑って言った。
「これがないと うまく歩けなくてなぁ。ああ、こまったものだ」
 ぼくは、なぁんだ そんなことかと すぐにUじこうに入り ステッキをくわえて外に出した。
 おじいさんはびっくりして ぼくを見つめた。そしてステッキをひろうと
「おーおーどこの犬か知らんが ありがとうよ。なんてかしこい犬だろうか」
 そう言うと何ども何どもぼくのあたまをなでた。そしてステッキを持つと ぼくにあたまを下げて
「ありがとう。ポチ」
 と手をふって、よろこんでかえって行った。
 こんどは〈かしこい犬〉か。
 ぼくはせすじをのばして歩きはじめた。
 みんながよろこんでくれるのって 気持ちいいなぁ。
「あれ? でもぼくはポチじゃないぞ」

               つづく

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