見出し画像

創作童話 ノンスケのサーカス12/12 (終)

 あくる日、てっちゃん家族が出かけるのをまって ぼくはまたぬけ出し サーカスのテントにもどってきた。
 川原では花火がうちあげられ、町ではサーカスのせんでんカーが音楽をならしながら走っていた。
 ぼくのむねは、ますます高なった。
 団長がぼくのところに来た。
「このようふくをきてもらうよ。ぼうしもね」
 それはいつかてっちゃんが絵本で見ていた、金色のふちどりのある王子さまのきるようなようふくと、かんむりのようなぼうしのついたマスクだった。
「これじゃあ、てっちゃんもぼくだってわからないだろうな」
 パッパラプップー プルッププー
 トランペットがなりひびいた。
 その時、テントのすみにマロンたちがあらわれた。
「あ、来てくれたんだ。ぼく、サーカスに出ることになったんだよ」
 けれどもマロンは、ぼくのそんなことばは耳に入らないかのように 中に入って来た。
「ティグラ、ひさしぶり」
 マロンは、ティグラにそうあいさつすると なつかしそうに見上げた。
 ティグラはびっくりしたようにマロンを見た。
「やあ、生きていたのか。あの時の火事でいなくなってしまったから心配していたんだ」
 ティグラはのっそり近づきながら 目をほそめて言った。
 マロンはむかし、サーカスでかわれていたそうだ。
 それが火事でにげだしてから、ゆくえがわからなくなってしまったそうなのだ。       マロンはぼくに言った。
「でもサーカスに出ていたわけではないのよ」
 ティグラもなつかしそうにマロンを見て言った。
「マロン、オレはすっかり年をとってしまって ショーに出るのもじしんがなくなってしまっているんだ。でもむかしみたいに きみがおうえんしてくれるなら、何だかやれそうな気がするよ」
 マロンはティグラに近よった。
「ティグラならやれるわよ!わたしは、かいねこがいやでにげだしたのに あなたはずっとやり続けていてゆうきがあるわ!たくさんの人が、あなたのショーを見たがっているのよ」
 ティグラのかおが明るくなった。
「きみが見ていてくれるなら がんばってみるよ」
 
 ティグラの火のわくぐりがはじまった。それはとても年老いたトラとは思えない はくりょくあるジャンプだった。
 いよいよペポットとぼくのばんがやってきた。ペポットはとても安心しているようだった。
 ティグラも
「なんだかひさしぶりに ドキドキするよ。しっかりな」
 とおうえんしてくれた。
 はじめにペポットが、とび石のようにおいてある 切りかぶのだいの上を歩き、ぼくは後からついて行った。
 かんきゃくせきから声がした。
「へんな犬がくっついているぞ」
 ペポットは、足をおりまげて ぼくをせなかにのせると、はなを大きく上に上げて二本足で立った。
 いよいよ玉のりだ。
 ぼくはペポットのせなかでバランスをとりながらおうえんした。
「右だよ。つぎは左!がんばれペポット!」
 ペポットは、初めてかいじょうを一しゅうすることができた。
 かいじょうがどよめいた。
「おい、犬がちょうきょうしているみたいだな」
「なかなかこきゅうがあっているぞ」
 ぼくはペポットのせなかに立って、かいじょうを見わたした。
「あ、てっちゃんだ」
 てっちゃんがこっちを見ている。
 そしてお母さんに何かささやいているように見えた。
「お母さん、あの犬ノンににていない?」
「何言ってるの。ノンスケなら今ごろひるねのまっさい中よ」
「きっとそう言っているのだろうな」   


                おわり
                

# 私の作品紹介

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?