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武勇伝

『俺の武勇伝聞きたい?』


昼飯を食べた後、一服してる時に一本吸い終えた先輩が煙草の火を灰皿にねじり消しながら聞いてきた。

『高校生の時の話だ。』

何も答えてないのに勝手に語り出す先輩を止める事もなく、そのまま煙草を吸い続けた。
先輩が高校生の時、彼曰く学年で一番可愛い彼女と付き合ってたらしい。
2人で初めて学校から帰る時の話みたいだ。
勝手に話を始めるくらいの先輩だから、その彼女が学年一かわいいとは疑問だが、先輩の恋話とは意外だったので少し興味がでた。

『…史上最強の腹痛が襲ってきた!』

2人で放課後待ち合わせて学校から駅まろうした時、急にお腹が痛くなったみたい。

『ちょっと待ってて、忘れ物をとってくる。』
と、彼女をその場に待たせて早歩きで学校に戻って行った。
高校生の頃トイレの個室に入る事さえ抵抗があったのに初めて2人での帰り道、お腹が痛くてトイレにいってくるとは、とても恥ずかしくて言えない。
よくわかる。あの頃は揶揄われる原因の一つだ。
彼女から姿が見えなくなったところで、走りだそうとしたが、振動でその場に漏らす事になるので限界までスピードを抑えた。

『今なら漏らしてもどうって事ないけどね』と、
冗談っぽく言ってるが、先輩ならありえると、つっこむ事もなく聞き流した。

このままだと校舎内のトイレでは間に合はないので幽霊がでると噂の体育館裏にあるトイレに駆け込むことにした。
この時間はまだ部活で学生がいるからそんなに怖くはないだろうと思ったが、部活の学生もそのトイレは使わずに校舎内のトイレを使ってるので余計に怖い。
しかしながらそんな事も言ってらんない。
薄暗いそのトイレに駆け込んだ。灯りをつける余裕もなく一つしかない個室に駆け込もうとした。
だが個室の扉の前に誰かいる。

噂は本当だった。異様な雰囲気の黒い人、顔の表情はわからないが目だけがはっきりこちらをギロリと見てる。

究極の選択

その場で漏らすか、個室に入って用を足すか。
考える間もなくすぐに幽霊を避けて個室に飛び込んだ。
こっちは学年一かわいい彼女を待たせてるし、何しろ史上最強の腹痛だ。非現実的な事より明日からの自分への高校生活の立ち回りの方が悪くなることを避けなければならい方を選んだ。

『ギリ、セーフ。』

最大のピンチを乗り切った…
流して扉を開ける。奴がいる。
しかし奴は安堵感の顔を見て暗闇に消えていった。

『ようはビビったら負け。』

そしてダッシュで彼女の元へ駆け戻っていったらしいが、そこに待たせていた彼女も消えていたと言う話。

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