みどりの窓口廃止状況を考察する
はじめに
JR東日本は2021年5月11日に、みどりの窓口を廃止し業務の効率化を推進していくことを表明した。それによると、当時440駅(首都圏231駅・地方209駅)を順次廃止し、2025年度までにそれぞれ70駅程度(=300駅廃止)とする方針である。それからちょうど3年となり、みどりの窓口がどの程度廃止が進んできているのか分析してみたい。
当初は、首都圏でも山手線内や新幹線停車駅などは除外されるものと推測されていたがさにあらず、駅を利用する乗車人員数の多さも関係のない聖域なき廃止となっている。廃止となる駅の基準は我々にはまったく理解不能であり、またその速さも想定を超えたものであることには驚きを隠せない。
最近ワイドショーやネットニュース界隈では、新年度からGWにかけてみどりの窓口の混雑について話題となっている。どの駅でも長蛇の列となっており、1時間待ちがざらであることのようだ。JR東日本ではネットや自動券売機利用を呼び掛けてはいるものの、効果が薄いようである。とにかくネットや自動券売機では手続きができない事柄が多すぎるのが問題である、とのメディアの指摘には頷かざるを得ない。
分析方法と内容
ここではネットや自動券売機で出来る事、出来ないことを論ずるつもりはない。現在まで廃止状況がどの程度進捗しているのか、また残り2年弱で更にどこまで廃止されていくのか展望したい。状況の整理にあたっては、所蔵している時刻表(2021年6月号~2024年5月号)全36冊のさくいん地図をすべて参照し、みどりの窓口廃止状況(廃止駅と廃止日)を抽出してみた。併せて駅の利用者数によって窓口廃止の傾向があるかを見るため、JR東日本が公表している2022年度の乗車人員も一覧表にまとめたので、データの詳細はダウンロード(近日中にアップ予定)して参照頂きたい。
2021年6~12月の廃止状況
みどりの窓口廃止表明後、初の廃止駅は6月30日に実施された横浜線八王子みなみ野駅、武蔵野線東所沢駅および五能線五所川原駅の3駅であった。続いて8月は、羽越線羽後本荘駅および奥羽線横手駅の2駅である。いずれも高速交通網から外れた地方ローカル駅で、線区収支も非常に厳しい個所が狙われた様子が伺える。
9月末までには首都圏でも廃止駅が増え始め、保土ヶ谷駅・新川崎駅・高尾駅など6駅、東北では愛子駅をはじめとして仙山線4駅と津川駅が廃止となった。10月は、首都圏を中心に山手線神田駅他2駅、中央線西国分寺駅他2駅、横浜線鴨居駅他2駅など15駅、および東北では二本松駅・左沢駅が廃止となった。11月は、首都圏でさいたま新都心駅、両毛線前橋大島駅他1駅、および東北では松島海岸駅、東北線太子堂駅他仙台近郊3駅など計10駅が廃止となった。12月は、首都圏の尻手駅・根岸駅・逗子駅・菊名駅の4駅のみ廃止であった。
2021年12月末現在、削減目標300駅に対する削減累計数47駅=15.7%
2022年1~3月の廃止状況
1月は、首都圏で他社線からの乗り換えによる乗車人数が多い北千住駅と栗橋駅・高麗川駅が、東北ではあおば通駅をはじめとして仙石線4駅の計7駅が廃止となった。2月末には、聖域とみられていた新幹線停車駅でも廃止が始まった。越後湯沢駅である。既に浦佐駅がちょうど1年前に廃止されており、2例目のケースとなった。首都圏では四ツ谷駅・市ヶ谷駅・小岩駅など4駅、東北では湯沢駅・酒田駅の2駅など計10駅の廃止であった。3月は、首都圏を中心に中央線高円寺駅・阿佐ヶ谷駅・西荻窪駅の3駅、常磐線泉駅・湯本駅の2駅その他君津駅・聖高原駅など計10駅が廃止となった。
2022年3月末現在、削減目標300駅に対する削減累計数73駅=24.3%
2022年4~12月の廃止状況
4月は、仙石線陸前高砂駅・中野栄駅が廃止となり仙石線仙台市内駅で全廃となった。5月は、外房線御宿駅・成田線小見川駅の2駅、6月は、総武線亀戸駅・成田線酒々井駅の2駅と、若干廃止ペースが鈍化している。7月は、首都圏の6駅東川口駅・南越谷駅・青梅駅・新木場駅・八街駅、および上総一ノ宮駅が廃止となった。8月も、首都圏の6駅国府津駅・港南台駅・北朝霞駅・稲毛駅・蕨駅、および北浦和駅が廃止となった。9月は、中央線武蔵小金井駅をはじめ茅野駅・上諏訪駅の3駅、新潟地区では信越線犀潟駅をはじめ三条駅・荻川駅の3駅など計9駅が廃止となった。
10月は、首都圏で京浜東北線南浦和駅をはじめ王子駅・大井町駅の3駅、有楽町駅・府中本町駅など5駅、東北地区では磐越西線磐梯熱海駅・猪苗代駅の2駅など3駅、計11駅が廃止となった。11月は、上越線群馬総社駅・沼田駅をはじめ、新潟地区の見附駅・磯部駅・小針駅の3駅など、計8駅が廃止となった。12月は、高崎線北本駅・新町駅、両毛線伊勢崎駅、および横浜線中山駅の4駅が廃止となった。
2022年12月末現在、削減目標300駅に対する削減累計数123駅=41.0%
2023年1月~3月の廃止状況
2023年1月にはいよいよ東北新幹線駅にも廃止がでる。9日に廃止となった白石蔵王駅である。1㎞ほど離れた白石駅を利用すれば良いとの発想であろうか。東北線矢吹駅・安積永盛駅・矢吹駅、および小牛田駅の4駅ほか、首都圏では巣鴨駅・長津田駅・安房鴨川駅など5駅、計10駅が廃止となった。2月は、新潟地区に於いて上越新幹線3つ目となる燕三条駅をはじめとして、柿崎駅・水原駅および越後曽根駅の4駅が、首都圏では山手線田町駅および大崎駅の2駅と取手駅など、計9駅が廃止となった。
廃止駅数の傾向を見ると、1月~3月にかけて増加しているようでこの3月も15駅が廃止となった。最も多い常磐線は東海駅・大甕駅・常陸多賀駅・相馬駅および山下駅の5駅が、東北線では槻木駅・船岡駅および大河原駅の3駅が、その他奥羽線川部駅・浪岡駅や秋田新幹線田沢湖駅なども含まれている。
2023年3月末現在、削減目標300駅に対する削減累計数157駅=52.3%
2023年4~12月の廃止状況
年度末の駆け込み廃止があったせいか、4月・5月の2か月間での新たな廃止駅はなかった。6月は常磐線原ノ町駅のみの廃止であった。7月は、内房線浜金谷駅と外房線鎌取駅の2駅のみ廃止。これにより、内房線では木更津駅以外は全廃となっている。
8月は、首都圏で山手線浜松町駅と恵比寿駅の2駅や武蔵境駅・高萩駅など6駅、東北地区では南仙台駅や磐越東線三春駅・小野新町駅など、計10駅が廃止となった。これにより、山手線内および宮城県内全路線ではみどりの窓口駅隣接配置は廃止となっている。
9月は、長野地区の下諏訪駅と豊科駅が、新潟地区の関屋駅・新崎駅および五泉駅の計5駅が廃止となった。これにより、白新線では豊栄駅以外は全廃、磐越西線では喜多方駅~新津駅間が全廃となっている。
10月は、首都圏の宇都宮線小金井駅・蓮田駅・久喜駅および古河駅の4駅と、高崎線吹上駅および深谷駅、他に渋川駅や拝島駅などが、東北では松島駅と大館駅2駅の、計11駅が廃止となった。これにより、東北線大宮駅~小山駅間や青梅線および八高線では全廃、両毛線でも前橋駅以外は全廃、奥羽線秋田駅~新青森駅間で弘前駅を除いて全廃となっている。
11月は、上越新幹線上毛高原駅、信越本線矢代田駅および宮内駅と、山形新幹線高畠駅、仙山線山寺駅の計5駅が廃止となった。これにより、仙山線では北仙台駅以外は全廃となっている。12月は、外房線勝浦駅のみの廃止となった。
2023年12月末現在、削減目標300駅に対する削減累計数192駅=64.0%
2024年1月~3月の廃止状況
1月は、東北新幹線でくりこま高原駅と水沢江刺駅で廃止となった。首都圏では国立駅・東戸塚駅・淵野辺駅および我孫子駅が、新潟地区では加茂駅および越後線寺尾駅と内野駅など、また東北では船引駅が廃止と、計10駅が対象となった。これにより、磐越東線では全廃となっている。
2月は、首都圏で西船橋駅・武蔵中原駅および荻窪駅など、水戸地区では赤塚駅・友部駅・結城駅およおび上菅谷駅など、新潟地区では新津駅・小出駅および越後川口駅など、そして山形新幹線赤湯駅など、計15駅が廃止となっている。これにより、弥彦線では全廃となっている。9日に廃止となったJR東日本の駅で乗車人数第12位の高田馬場駅までもターゲットとされたのには、さすがに驚きを隠せなかった。
3月は、首都圏で成田線湖北駅・木下駅および安食駅の3駅が、東北線では石鳥谷駅・仙北町駅および石越駅の3駅が、その他十和田南駅・深浦駅・千厩駅の地方交通線や山形新幹線天童駅など、計12駅が廃止となった。これにより、外房線では蘇我駅以外は全廃、小海線では佐久平駅以外は全廃、五能線では鰺ヶ沢駅以外は全廃、大船渡線では気仙沼駅以外は全廃、成田線では佐原駅以外は全廃、水郡線では常陸大子駅以外は全廃、そして水戸線では下館駅以外は全廃となっている。
2024年3月末現在、削減目標300駅に対する削減累計数230駅=76.7%
削減対象駅の傾向分析
これまでの削減された駅の傾向を見ると、次のような特徴がみられる。
①地方都市に於いては、中心都市所在駅の近郊駅は軒並み廃止する。
②地方交通線は、当該路線内1駅のみを残すかまたは全廃する。
③新幹線と在来線が近接している駅は、いずれか一方の駅を廃止する。
④都心駅に於いては、乗車人数の多寡に拘わらず2~3駅間隔となるように間引き廃止する。
⑤都心環状を構成する路線の途中駅は、放射状路線の交差駅を除いて廃止。
(環状1:南武線川崎駅~武蔵野線~京葉線東京駅)
(環状2:横浜線横浜駅~八高線~川越線……成田線~総武線千葉駅)
今後の展望
上記の傾向を踏まえ、残り2年間で削減される70駅が何処になるか分析し、リストアップ作業をしていたところ重大なニュースが飛び込んできた。なんとみどりの窓口削減に伴う昨今の混乱を受け、JR東日本では今後の削減を中止すると発表したのだ。現在あるみどりの窓口(209駅)は残し、既に廃止した一部の駅に於いても繁忙期には臨時窓口を開設するとのこと。うれしい情報ではあるのだが、そうはいっても地方では一旦廃止されてしまった窓口(特にマルス端末撤去駅は絶望的であろう)の復活は難しいであろう。
これまでの削減対応によって、地方ではみどりの窓口格差が生じている。この3年間で廃止となった駅が多いのは、東北6県・新潟県・群馬県・栃木県および千葉県である。一方、長野県・茨城県・神奈川県および静岡県の一部区間の駅に於いては今後の2年間で削減される予定であったのだろう。長野駅や松本駅・土浦駅・茅ヶ崎駅・および熱海駅近郊駅は残された形となっており、既に廃止されたほかの地方の路線図に比べるともはや無駄にみどりの窓口駅が密集しているのだ。なんだか割り切れない気がするのは私だけであろうか。
更に問題なのは、現在発売されている時刻表(JR・JTBとも)では、路線図に掲載されている有人のみどりの窓口駅表記と、遠隔オペレーターが対応できる券売機設置駅の区別なく、同じ緑の●印で表記されていることである。これではみどりの窓口だと思い実際に駅に出向いても、遠隔オペレーターから「ここでは扱えませんので有人のみどりの窓口駅へ行ってください」となりかねない。時刻表の編集者の方へ、この区別だけは利用者にわかるように早急に色分け対応して頂きたい。
下記にみどりの窓口が廃止となった230駅について、廃止日別に駅名と乗車人数を集計した表を掲載しておくのでご参照頂きたい。
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