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うつの日常、見えない恐怖
「うつなのに楽しんでるの?」という言葉の怖さ
うつになると、本当に何もできなくなる。
よく「うつなのに何楽しんでるの?」「うつなのにそんなことしてていいの?」といった言葉を目にすることがある。
これが、うつの人を最悪の状況へ追い込む危険な言葉だと思う。
産後うつの状態になった私は、家の中での会話や行動、妻の言動が怖くなった。
会話が怖い、笑顔が怖い
まず、会話がわからない。
今話しかけていいのか、何か気を遣った言葉をかけないといけないのか。
考えすぎて訳が分からなくなる。そして、笑顔がなくなっていく。
「今、笑っていていいんだっけ?」
「妻は機嫌が悪そうなのに、育児で大変そうなのに、自分は笑っていいのだろうか?」
「不快に思われないだろうか?」
こんなことを考え続けるうちに、どんどん自分の感情が消えていく。
笑おうと思っても、笑えなくなる。
病院に行く直前、鏡を見た自分の顔を思い出す。
笑おうとしたが、目が死んでいた。
口だけが不気味に動いた。
目は悪魔のようだった。
笑い方が分からなくなるのだ。
家事や育児も怖くなる
家事や育児も、どんどん怖くなって、やれることが減っていく。
本当は一緒にやらなきゃいけない。
妻に少しでも楽をしてもらいたい、ということは頭では分かっているのに、手が動かない。
おむつ替えがまだうまくいかない。「うんちが漏れたら、自分のせいだ」と思う。
ミルクがうまく作れない。モタモタしていると子どもは泣き、妻は「早くしてよ」とせがむ。
抱っこしても、「その抱き方じゃない、もっとこうして」と言われる。
あやしていたら、「今は構わないで」と言われる。
心の中はパニックで、何もできなくなっていく。
気づけば、子どもと妻が楽しそうにしている姿を、ただ立ち尽くして見ているだけになっていく。
唯一の解決策は、夫婦の会話
今、唯一の解決策は「夫婦の会話」だと思っている。
1日1分でもいい。少しだけ、笑顔で話せる時間が増えてくれればいい。
朝の「おはよう」
夜の「おやすみ」
明るく言えているだろうか?
背中を向けて、顔も見ずに、「あれやっといて」とだけ言っていないだろうか?
少しずつ、日常への扉を開くこと。
これが、一番の薬だと思う。
補足情報:うつと会話の重要性
うつ病の人にとって、「孤立感」 は最も危険な要素のひとつとされている。
日本うつ病学会の報告によると、うつ病患者の回復には、日常の中に小さな「つながり」を作ることが重要 だという。たとえ短い会話であっても、「自分はここにいていい」と感じられる時間を持つことが、回復につながるのだ。(参考:日本うつ病学会「うつ病の理解と対応」)
また、家族との会話が少なくなることで、「自分は必要とされていない」と感じやすくなる という研究もある。(参考:厚生労働省「こころの健康とコミュニケーション」)
つまり、ほんの少しの会話でも、うつの人にとっては大きな支えになる。
「おはよう」
「おやすみ」
この一言を、明るく交わすことから、回復の道は始まるのかもしれない。