#1 毒親を矯正しようとしたら逃げて実家を出て行った話。
33歳の冬。毒親問題に対処できると思い、結婚後Uターン移住して実家に戻った。親のためではない。夫婦で決めた夢を叶えるためだ。
60代に入った頃から母親は昼夜問わず酒を飲んでは潰れ、最終的に玄関で失禁する生活を送っている。
私が子供の頃、母親から暴言・暴力を受けても反抗などしなかった。
たった9軒しかない限界集落。築150年超えのプライベート空間のない家。バス停まで徒歩15分。お小遣いもないのでバスにも乗れない。
生まれたこと自体が失敗だったので、何をしても無駄だと幼いながらに理解していた。
「あゆみが3姉妹の中で一番好き」唯一抵抗しない私へ母は呪いの言葉を囁く。
33歳で実家に戻った私は、子供の頃「何をしても無駄」だと思っていたことが、自力で解決できることに気づいた。
まず、母親を入院させた。8年ほど前に肝硬変で一度危篤を迎えたが、「病気じゃない」と言って治療を受けなかった。
常に黄疸が出ていて、ついつい松崎しげるを思い浮かべてしまうほどの茶色い肌色をしている。なぜか後頭部もハゲている。
泥酔した母は言う「私は可愛いもん。みんなに若いって言われるもん。」
私「(いやいや、病気の松崎しげるにしか見えんよ。)」心の中で呟く。
母を強制入院させた後、父親の幼稚さを矯正することにした。母があんな状態になっているのは、全てを他人や環境のせいにしてきた、幼稚園児並みの精神年齢の父に相当な責任があるからだ。
父は典型的な農家の長男様思考で、自分を中心に地球が回っていると勘違いしている。
家族を養ってくれるならまだ分かるが、農業で生活できず週6日運転手のパートをやっている。何なら農業はもうほとんどやっていない。家の固定資産税の支払いや修繕も、全て90代の母が払っているのだ。
そして何より、この令和の時代でも男女差別していて、女性を心底見下している。他者に対して(特に女性に対して)はすこぶる厳しい。自分のことは棚に上げて。
母が入院してから数週間後、根ワサビの収穫時期を迎えた。私も主人も週2〜3日は町で働いているため、予めスケジュールを立てた。
父は週6日パートに出ていて、ほぼ戦力にはならない。
そこで、知り合いのおばちゃんたちに声をかけて手伝ってもらうことにした。毎回3〜4人くらいのおばちゃんたちを集めた。
おばちゃんたちは「あたしワサビやったことないからできるか分かんないよ〜」なんて言いながら、ものすごいスピードで捌いて納品用の形にしていく。おばちゃんたちのおかげで、猛暑でワサビを腐らせずにほぼ全てを出荷することができた。
「あ〜ぁ、せっかくたくさん売上が入ったのに全部出て行っちゃう」父は女に価値がないと思っているので、簡単にこんな言葉を吐く。「あなたはゴミみたいな思考してるんだね!」と直接言ってみても伝わらなかった。世界から差別がなくならない理由な気がした。
母がいない3ヶ月間の間、私は父に色んなことを伝えた。
「あなた方にお金がないのは現実逃避にバンバンお金を使っているからだよ」
「男女雇用機会均等法っていう法律があるんだよ」
「あなたが祖母にやっていることは虐待っていうんだよ」
「それはフェイクニュースっていう閲覧数稼ぎの意味ない動画だよ」
「もうとっくの昔にバブルは崩壊したんだよ」
根気強く伝え続けた結果、そんな父にも少しづつ変化が見えた。
ある日から、数十年無視し続けていた祖母と普通の会話ができるようになったのだ。
「ありがとう」とも言えるようにもなってきた。
しかし、問題は人だけではなかった。築150年を超える家の中は、相当汚い。
下駄箱にはカビだらけの靴が大量に突っ込んである。1階だけで9部屋あるのに、衣類や古い家具が突っ込んであって半分以上は使用不可。
当然、家中青カビだらけ。近くに家より広い小屋もいくつもあるのに、そこにも足の踏み場さえないほどに物が突っ込みまくってある。
主人と2人で泣きながら掃除した。床が見えると感動した。カビが取れると感動した。ゴミ屋敷もキレイにできるかも、という希望が出てきた。
この頃、本気で機能不完全家族を改善できると思った。
しかし、努力も虚しく失敗に終わった。
3ヶ月の入院を経て、母が退院してきた。期待はしていないが感謝も謝罪もない。
帰ってきた瞬間からキレまくって、家中のドアをバンバン開け閉めした。
私が子供の頃からやっている、母のお怒りアピールだ。
母が退院した初日の夜、料理酒を飲み干された。
次の日、母は自分で日本酒を買ってきて気づいたらまた潰れていた。
その次の日から、父から私への嫌がらせが始まった。
ワサビの収穫用に購入した剪定バサミ、クワや軍手、全てを隠し始めた。
近所や親戚に私の悪口を言いふらす父。
悪口を聞いた人たちから私へ連絡がくる。いろんな人から心配された。
「母のアルコール依存症はあゆみのせいでなった」
「あゆみのせいで母がアルコールを飲んでしまう」
「ワサビであゆみがいい加減なことをして大損させられた」
「あゆみは電気代すら払わない」
「あゆみはただのアルバイターで俺(父)の収入を収入を当てにしている」
「娘婿(旦那)はあゆみに気を遣って我慢しているが、実は俺の味方だ」
正直心当たりのないことも多々あって、父の豹変ぶりに何が何だか分からなかった。ただ、恐らく両親が共依存関係にあって、何を話しても無駄だろうということは分かった。
最初は反応していたが、ストレスが溜まるので拒絶することにした。
嫌がらせをされても反応せず、両親が家にいる時は姿を見せるのをやめた。
台所に行く時はヘッドホンをつけて、話しかけられても聞こえないフリをした。両親は会話を聞いてほしいアピールをしてくるので、彼らがいるときは部屋で大きめの音楽を流した。
そんな生活を1ヶ月ほど続けたところ、両親がアパートの契約をしたらしく、夏の台風と共に出て行った。近所も親戚も驚いていた。そして口を揃えて「どうせ生活できなくなって戻ってくるよ」と言う。
今、両親が出ていって2ヶ月目だが、父は今も電気代を払い続けている。
こちらからは名義変更の提案をしているが、「忙しいからまた連絡する」と言って逃げてしまうのだ。
親戚たちには「すでに話し合いが終わって名義変更が完了した」と嘘をついている。
父は一体何がしたいのだろうか。
誰にも同情されないし、母は父に隠れて酒を飲んでいるだろう。
毒親は骨の髄まで毒に侵されている。
関係の修復なんかできないのだ。
とはいえ、両親が出て行き人並みの生活ができるようになったので、私自身はホッとしている。
しかしこの先どんなことが起こるか分からない。
私のやるべきことは様々なリスクに備えて、小さな対策を積み重ねていくのみだ。
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