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あなたのおみとり
大学の先生から「オススメ」と言われていた映画を見た。
胆管がんで入退院を繰り返し、もう治療することはできないと言われた父。自宅か緩和ケア病棟か、と言われて「家に帰りたい」と自宅を選択。
80代の母と一緒に息子が看取るその最後の日々。監督はこの息子。ドキュメンタリーである。
ファーストシーンは海。波飛沫をあげて走る船の後ろ側が流れる。これがラストシーンに繋がる。この構成はとても良いと思った。
しかし
正直な感想としてはよく撮ったな。よく撮らしてくれたなという感じがした。もう自力ではトイレに行けない父のために訪問入浴を頼むのだが、この入浴シーンも衝撃だった。部屋に浴槽を持ち込み湯を張り、複数スタッフで抱き抱えて浴槽に。浸かっているあいだも複数のスタッフで見守り。「気持ちいいですか?」と笑顔で話しかける。
でもわたしには違和感。もちろん物理的にひとりで入浴などもう不可能なのだからこれしか方法がないのもわかる。でもなんだろう。こうやって大勢が取り囲まれる中で湯に浸かってもリラックスできないような気がした。お風呂の気持ちよさはひとりで湯船に浸かってあったかいな、気持ちいいなあと感じる、そこにある気がした。
そしてさらにここにカメラが入っているわけである。わたしがこのお父さんの立場だったら「やめて。撮らないで」と言うかもしれない。実際あとでプログラムを読むとお父さんは撮影を許可していたわけではなかったそうだ。ある日突然息子がカメラを回し始め、その姿は見ていたけれど何も言わなかったそうだ。息子の仕事は知っていたので「黙認」だったのかもしれない。あるいはもう拒否するような元気もなかったのかもしれない。
夜中のオムツ交換も、現実とは知りつつもやはり目を背けたくなった。介護現場というのはやはり過酷だし、知っているつもりでも目の前に「ほら」と出されると逃げ出したくなる。そんなこと言っていられない。介護に向き合って歯を食いしばって頑張っている方々が今もたくさんおられる。決して他人事ではなく、自分もいつかは介護される側になる。そう思うと胸が苦しくなる。
お父さんは段々言葉数が少なくなり、モノも飲み込みにくくなる。その瞬間は突然にやってくる。急に呼吸がおかしくなる。いつもの呼吸と全く違う。医者を呼び血圧を測ってもらうとかなり低い。もうそろそろだ。その枕元でお母さんが歌を歌う。
小学校の先生だったというお父さん。そのお父さんのために「一年生になったら」と一生懸命歌うお母さん。この作品の中で最も美しいシーンだと思った。決してずっと仲の良い夫婦ではなかった。喧嘩して一年も口をきかなかったこともある。でも愛していた。大切な存在だったということが伝わってきた。
お父さんの希望で海洋葬をすることになり、ラストは船の上から骨の入った紙袋を流し「お父さん、さようなら!」とお母さんが叫ぶ。冒頭の波飛沫のシーンがここに繋がる。
見るのがつらいシーンもあったけれど、色々なことを考えさせられた。撮影している息子さん自身もつらい時があったと思う。よく完成させたなあと感心した。
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