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心に刻まれた言葉たち

僕がまだ若かりし頃。
28歳で初めて就職した最初の会社が京都の小さな美術系出版社でした。

縁あって編集者として入社したのですが、
何もかもが初めての世界でしたし、
印刷物がどうやって世の中に生まれてくるのかも知らなかったし、
ましてやこの世にファッション・デザイナー以外のデザイナーが存在するということすら初めて認識したくらいの出発だったのです。笑

入社したての頃に、当時の専務(僕をスポーツをしていたというだけで入れてくれたのちの社長)が社内の専属デザイナーに怒ってる声を今でも覚えてて。笑
僕らのいるフロアの隣にデザイン室があって、そこから専務の怒号が。笑

「修正が嫌ならデザイナーなんか辞めちまえよ!!」

またある時に、編集者に向かって専務が放った怒号も鮮明に覚えてて。

「デザイナーが赤だと言ったら赤なんだよ!!」

その時の実情や内情は置いといて、この2つの怒号は僕の心に深く刻まれていて、この30年間、デザイナーとして生きてきた僕の仕事の根幹を作ってる重要な要素としてずっとそうだよなって思ってきたんですよね。

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修正というのはつまらないし大変な仕事です。
納得いかない修正も時にはありますし、あり得ない手順で繰り出される修正に辟易とすることだってもちろんあります。
でも、修正はデザインという業務の重要な要素の一つですから、まあ文句が溢れ出たとしても、決して拒否や拒絶して仕事が成り立つものではないんですよね。

冷徹で冷酷で冷淡、あるいは合理的で理知的で法務的なロジックで、修正の設定回数を超えれば容赦なく別料金を課すということも理屈では可能ですが、僕が生きてきた世界は一元さんと何かをやりとりをするような八百屋方式の商売ではなかったので、ずっと継続してお付き合いしているクライアントや業者とのやりとり上で生じる修正や変更ですから、容赦ない対応はまず行うことはないのですね。
それで成り立って会社が存続しているわけですから、局所で生じたしかも本来のデザイナーという業務の本質を見誤った不満に専務がキレたのも理解できるのですよね。

そして、編集者の好みや拙いロジックで、デザイナーが吟味して逡巡して苦しみながら生み出した、あるいはクリエイターとしてのひらめきで輝かしく生み出されたその印刷物に生命を吹き込んだ箇所を変えてしまうという行為が我慢ならなかった専務の感覚も盛大に支持したいと思うのです。笑

要は役割分担であって、デザイナーは編集者やディレクターの好みのものを作るために仕事をしているのではないんだ!という強いメッセージが、その時の専務の怒号に込められていたんだと思うのですよね。

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僕が心に留めていることは意外とたくさんありますが、実はこの二つの言葉を強く留めているのを我ながらも深く感じているんです。

前出の言葉は、デザイナーであること以前の業務として、下される重なる修正業務指定がとても無能で怠慢な業務の末に派生していると捉えてしまう、相手への尊厳を欠いたかのような傲慢な仕事の姿勢を戒める言葉として留めていますし、
後出の言葉は、僕が信じているクリエイティブのベクトルを肯定してくれている言葉として、今では僕の言葉としても置き換えられて僕を支えてくれてもいます。
まあ修正に関しての多くは「とても無能で怠慢な業務の末に派生している」ことが多過ぎなのも事実なんですけれどね。笑

教訓や訓示とはまた違うものなのですが、何気に発した言葉が誰かの心に深く刻まれるということはあるものです。
そう考えると、僕がかつて何気に発した言葉のどれかが、誰かの心に深く刻まれている可能性だってあるわけですよね。
出来れば、良き影響を生み出した言葉として刻まれて欲しいものですが、意外とその全く逆のパターン、傷つけた言葉として刻まれることの方が多いような気がしてて。笑

やだな。
それ。
怖。笑

出来ればそれらは知らないまま死なせてくださいませ。w





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