学校の先生にお勧めの本 ー「生徒指導の聴き取り方」
「生徒指導の聴き取り方」(学事出版)という本を読んだ。
奈良女子大学大学院の片山紀子氏の編集で、複数の著者が執筆している。副題は「場面設定から質問技法まで」とある。
本屋で表紙を見た時、「え?」という感じだった。「こんなことまで本にしなくてはいけないのか?」と思ったのである。だが、手にとって初めのほうをパラパラとめくってみてすぐに、「確かに必要な本だ」という気持ちに変わり、購入した。
私が20代の頃、「生徒指導の聴き取り方」は本で学ぶものではなく、先輩教員から口伝のように、あるいは実地で教えてもらうことだった。初任の頃に勤務していた学校にやんちゃな生徒はそれほど多くなかったが、生徒同士の喧嘩、喫煙、万引き、等の「事件」はそれなりにあった。
当時の「聴き取り」は本書にもあるよう、刑事ドラマばりに「自供させる」という雰囲気で、強面の男性教員が詰問する、というのが当たり前だ。当然、今では完全アウトのやり方だが、一方で、「当該生徒同士を接触させない」「生徒を絶対に一人にしない」「複数生徒の喋ったことに齟齬がないかじっくり擦り合わせる」等の基本的なことはベテラン教員がきっちり押さえて私たち若手に指導してくれた。
ひるがえって今日、生徒指導上の課題は変化している。陰湿ないじめ、痴漢被害、親からの虐待、不登校、等々「聴き取り」の場面や必要性は拡大するばかりだ。同時に、団塊世代の教員の大量退職後、生徒指導のノウハウの継承が難しくなっている。もはや「口伝」は期待できない。(実際、数年前に生徒間のちょっとしたトラブルがあり、若手教員数名に「聴き取りして」と言ったら「したことないんで。どうすればいいですか。」と固まっていた。彼らの経験不足を責めてはいけない。教えてもらわずにできることではない。)さらに、いじめ問題等で保護者が法的手段に訴えることも増え、客観的な記録を正確に残すための「聴き取り」も求められている。
本書では、副題にもあるように「聴き取り」に臨む際の場の設定や、「評価・指導をせずに客観的な事実を聞く」という心構え等、基本的かつ重要なことが整理されている。若手だけでなくベテラン教員にもお勧めだ。一点リクエストするとすれば、SNS上のトラブルが起こった時の「聴き取り」についても書いてあると良かった。本書には姉妹編の「生徒指導の記録の取り方」という本もあるそうだ。そちらもぜひ購入したい。