友の会会員が選ぶ「今年の3冊」DAY.7
きみこ 選 :視野を広げてくれた3冊
本に囲まれた職場から戻りシチューを煮込みながら、ワインを飲みながら、眠りに落ちる瞬間まで本を読める幸せ。読む本は気の向くまま、強制や制約がない幸せ。ただ時間の制約はあるので、これは後回しにしてこちらから、ということはままある。その結果「罪と罰」は中巻で止まっているし、「失われた時を求めて」は幻のライフワークとなる。
そんな中での今年の3冊。これらは読書によって今年もまた私の好奇心が刺激され、視野を広げてくれたという意味で上位に君臨した3冊である。
①『日の名残り』(早川書房)
読んだそばから忘れるようなものも多い中で、忘れ難い一冊。誇り高く崇高な主人公のわずかな心の揺らぎを、カズオ・イシグロ独自の世界観で表現する。翻訳の素晴らしさも圧巻。正に必読の書ではありますまいか。
②『夕暮れまで』(新潮社)
梯久美子著『狂うひと』の中に島尾敏雄と吉行淳之介との交流が描かれていて、当時「夕暮れ族」と呼ばれる人々がいたとのことで読んだ一冊。これが元で2ヶ月ほど吉行淳之介にはまり、関連本を読み漁り、論文でも書きたい位の気持ちになった。
③『吉原手引草』(幻冬舎)
花魁の失踪という謎解きを、吉原遊郭の仕組みや内情を詳しく語りながら一気に読ませる。よくある人情モノではなく、江戸文化としての吉原が浮かび上がる。どこか樋口一葉の「にごりえ」を彷彿とさせる。2007年直木賞受賞作。
以前職場で「まだまだ読みたい本が沢山あるので当分死ねない」と言って退職された方がいたが、私も全く同じ感覚。来年の自分はどんな3冊を選ぶのか。今から楽しみだ。
【記事を書いた人】きみこ
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