主人公の母79歳は大食い、英語使い、小鼓の名手~ペリー荻野 × 豊崎 由美、柴田 錬三郎『御家人斬九郎』を読む~
2021年7月の月刊ALLREVIEWS、フィクション部門は元祖『ちょんまげ女子』ペリー荻野さんを迎えて、柴田錬三郎『御家人斬九郎』を読み解きます。「日本史の教養がなさすぎて」時代小説が苦手の豊崎さん。幼稚園前から時代劇を見ていて、20歳を過ぎて時代小説を読むようになったペリーさんに教えを乞います。
※対談は2021年7月26日に行われました。
※対談はアーカイブ視聴が可能です。
柴田錬三郎(シバレン)は眠狂四郎だけではない!
今回、ペリー荻野さんが選んだ作品は柴田錬三郎『御家人斬九郎』。フジテレビで、斬九郎=渡辺謙、斬九郎の母、麻佐女=岸田今日子でドラマ化されたのでご覧になった方も多いのでは。
豊崎社長はドラマを見ていないのですが、大食いの麻佐女は、テレ東大食いでおなじみの魔女菅原に匹敵すると、大喜び!麻佐女は、大食いなだけではない。79歳にして、国宝級の小鼓奏者であると同時に、なぜか語学もできるというスーパーウーマン。この小説、最初、新潮文庫で出た時は、斬九郎が介錯をするシーンが表紙なのですが、現在販売されている集英社文庫では斬九郎と麻佐女の姿が表紙に。時代とともに、麻佐女の存在感が増している。昭和の時代に、麻佐女というキャラクターを描けたのはすごいと豊崎さん。「まるで長谷川町子の『意地悪ばあさん』。意地悪は頭が良くないとできない。」
柴田錬三郎は1978年に61歳で亡くなります。ペリーさんが紐解く生前のエッセイでは、朝はテレビ局と打ち合わせ、昼食は女優とホテルで、夜には週刊誌連載を書き…と超多忙。確かに、昔、『ほんものは誰だ⁈』というバラエティ番組にレギュラー出演されてましたね。
もう少し長生きして、麻佐女を前面に出した作品を描いて欲しかったと社長はいいます。今は、「眠狂四郎」の作者として知られる柴田錬三郎。ペリーさんは他の作品も知ってほしいということで明るい眠狂四郎ともいわれる『斬九郎』を選びました。
ペリーさんはシバレンの作品として、『貧乏同心御用帳』も上げます。テレビドラマ『びんぼう同心御用帳』の原作小説。貧乏同心が、孤児を次々とひきとり、最終的には9人の子供と暮らす話。ドラマは古谷一行主演で、孤児の一人で錦戸亮が出演しているという豆情報にも詳しいペリーさんです。
豊崎社長と隆慶一郎の縁
豊崎さんは本を読む時は一言一句丁寧に読むタイプ。このため、時代小説に出てくる、老中、大目付、勘定方などの役職がわからないことにいちいち、ひっかかり、読み進めない。日本史の教養のなさを痛感するそう。このため、階級が出てくる武士の話より、市井物といわれる話のほうがまだ惹かれるといいます。
そんな豊崎さんですが、隆慶一郎は別格です。豊崎さんは貧乏だった若いころ、隆慶一郎に「とよ坊」と呼ばれ、可愛がられていたそうです。隆慶一郎は、本名の池田 一朗名義で脚本家として成功、このため仕事に対して不義理をすることができず、長年の念願であった時代小説を書き始めたのは60歳になったとき。隆慶一郎として活躍したのはわずか5年。豊崎さんは隆慶一郎の作品は全て読んでます。『吉原御免状』はぜひ読んで欲しい!
ペリーさんは社長の課題本の丁寧な読みに対し感心
一言一句を逃さない豊崎さん。麻佐女が薙刀の名手で、敵一人は倒せるという描写に関心します。麻佐女は女で79歳。いくら凄腕といっても、それ以上倒せたら現実味が亡くなってしまうと、シバレン先生の節度に関心します。ペリーさんは細かく読み込む豊崎さんの読解力に感嘆。「時代小説が読めている!」
最後にペリーさんからのオススメ本。岡本綺堂の『半七捕物帳』。こちらもドラマになっています。真田広之版は覚えている方も多いのでは。
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対談では、「キザ」についての見解、ペリーさんの司馬遼太郎『燃えよ剣』、『竜馬がゆく』への愛、豊崎さんの新撰組=ヤンキー説など、さまざまな話をじっくり楽しめます。おたがい好みは違いながらも、互いに尊重し、楽しく話す、良い対談のお手本です。対談の最後には豊崎社長の還暦お祝いも!
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【記事を書いた人:くるくる】
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2021年2月には、鹿島茂さんとの対談6本をまとめた『この1冊、ここまで読むか!超深掘り読書のススメ』が祥伝社より刊行されています。
本が読まれない時代を嘆くだけではダメだと思う方、ぜひご参加ください。
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