ノスタルジックな写真を撮る小さなコツ
ノスタルジックの定義
「ノスタルジック」という言葉が持つイメージはとても広くて、人によって思い浮かぶイメージには差があると思います。私が感じるノスタルジーは、
こんなイメージをもっています。
写真って極論すると、常に過去を振り返るものですよね。今を撮っても、撮った瞬間に過去になる。今はないけれど、かつてそこに存在した。そのこと自体が貴重で、いつも感じていたい……みたいな。
こういうことを感じられるのも、私が生きているから。今はそこになくて、でもかつてあった何かを感じられる。ああ、私は今、生きている。そう感じられることそのものが、生きている実感にもつながっている気がしています。上の写真は、そんな気持ちを表した1枚です。
ノスタルジック感は技術的にどう撮るか
光の加減も色々ありますが、基本的に私は撮って出しができる撮り方をベースに考えています。目の前に広がる世界をよく見て、自分の頭の中にあるイメージが組み立てられるカメラとレンズを選んで、色味のコントロールを直観的にその場でしながら撮ります。
例えば、光を美しく捉えてくれるレンズを選ぶのも撮り方のひとつ。カメラの設定でノスタルジックな色設定ができるものもありますので、自分用のカスタムをいくつも設定して、それを使うこともあります。私のカスタムは「真弓カスタム」と名づけて使っています。
個性に合わせたノスタルジック感の見つけ方
写真が面白いのは、雰囲気のある写真を撮ったからといってノスタルジック感が出せるかというと、そうでないところにあります。私が写真教室で生徒さんに「ノスタルジックな写真はどう撮ればできますか?」と尋ねられたときは、こんな質問をします。
「あなたは、どういう色味にノスタルジックを感じますか?」
とあります。意味を読んでも、人によって受け取り方は様々。となれば、写真で表現する「ノスタルジック」は、百人百通りの表現になることはご理解いただけると思います。
だからこそ”自分の好きなノスタルジック”を深堀りしていただいて、「私の思うノスタルジックはこうです」というスタイルを見つけていただくことが、撮りたいノスタルジックの見つけ方です。
というのも、ちょっと想像してみていただきたいのですが、「今からノスタルジックな写真を撮ってみましょう」と言われて、すぐに撮れますか? 普段から自分なりの「ノスタルジック」な写真の感覚やイメージがないと、何をどう撮ればいいかすぐには決められないと思います。
世の中にはたくさんの写真があふれているので、写真展や写真集、雑誌やSNSでも、何でもいいんです。“私が感じるノスタルジックな写真はこういうイメージ”をたくさん集めて、自分の中の「好き」を分析していくと、撮りたい「ノスタルジック」が見えてきます。
ノスタルジックをな写真を実際に撮りに行く
自分なりのイメージがまとまったら、いよいよ撮りに行ってみましょう。とはいえ、集めたイメージどおりの被写体をすぐに見つけられないこともあります。そんなときにおすすめしたいのが、街の中で感じる経年変化を見つけて撮ってみることです。
経年変化とは、物質が時間とともに変化して劣化することで、日に当たって変色・変形したり、摩耗や腐食することを言います。たとえば、アスファルトの上の道路標識、駐車場に書かれた番号など。公園のベンチや滑り台なども、経年変化がわかりやすいですよね。
自分なりにこれだと思う対象物を見つけたら、まずはたくさん撮ってみます。引きで撮り、寄りで撮る。タテで撮り、ヨコで撮る。
距離や角度を変えて何度も何度もしつこく繰り返しているうちに、「この角度が好き」とか、「この位置で差し込む光がいい」など、何かが見えてきます。その感覚を積み重ねていくと、自分なりの「ノスタルジック感」がつかめてきます。
テーマがあると結果的にノスタルジックになる
ここまでノスタルジックな写真の撮り方の技術的なコツを書いてきましたが、私自身は「ノスタルジックな写真を撮ろう」と思って撮ってはいません。
暮らしの中にある「きらめき」を撮りたい、「今ここにいる」実感や「きらめく瞬間」を意識して写真を撮りたい、そんな思いで日々写真を撮っています。その思いが結果的にノスタルジックな写真を生み出しています。
「そこにある」というテーマで昨年写真展をしましたが、そのテーマの根底には、人には限りがあるという想いがあります。過ぎ去った時や薄れゆく記憶は永遠ではないからこそ、今が愛おしくて、この瞬間を撮りたいのです。
この記事では、ノスタルジックな写真をテーマに書いてきました。技術的な撮り方、写真を撮る自分自身のテーマを表現する撮り方、どちらもぜひチャレンジしてみてください。
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