見出し画像

薬剤師が解説!保湿剤ってどれくらい塗れば良い?

いつき博士です。
アレルギー患者教育向けサイトを運営しております。

皆さん、保湿剤1日何回塗っていますか?

実は薬の説明書には
『1日1回~数回塗布』と記載があることが多く
厳密には決まっていないです。

いやいや、
数回ってなんだよ
と思ったことはありませんか?

塗布回数と塗布量が
保湿にどの程度影響するのか
大谷真理子先生の
文献が大変参考になりました。

一部改変したうえで
論点を絞って説明します。

1.一般的な保湿外用剤

アトピー性皮膚炎のガイドラインでは
外用回数は1日1回の外用よりも
1日2回(朝・夕)の外用の方が保湿効果は高く
そのうち1回は入浴直後が望ましい
とされています。

正直2回も保湿するのは
大変と感じるかもしれません。

本当に2回も塗らないといけないのでしょうか。

2.過去の研究データ

過去の試験では
以下のことが確認されてきました。
※細かい数字は割愛いたします。

①中村先生らの研究では
 面積あたりに塗る量が多い方が
 1日の保湿効果高かった。

②保湿剤の1日1回と1日2回では
 保湿効果に違いはない。

③川島先生らの研究で
 1日2回と何も塗らない群では
 アトピー性皮膚炎の再燃を有意に低下した。

上記を踏まえて文献を見ていきましょう。

3.保湿剤の効果に及ぼす塗布量と塗布回数の検討

3-1.目的

ヒルドイドローションとソフト軟膏を
2週間連用した際の塗布量塗布回数
どのように効果に差を及ぼすのか。

<ローションと軟膏での特徴の違いについて>


3-2.試験デザイン

本試験では14日間、下記条件で
塗り分けて保湿効果の違いを見ています。

【塗布量の試験】
1日1回朝0.5,2および3 ㎎/㎠で
それぞれの塗布量で比較

【塗布回数】
1日1回と1日2回朝および夜の入浴後
2 ㎎/㎠(塗布量)

塗布回数では1FTUも考慮したうえで
この量の比較を行っています。

【対象】
健常人5人
男性3名(23~27歳)
女性2名(24±2歳)

対象人数は少ないですね。
少人数だとデータの信憑性が
あるのか悩ましいです。

【対象部位】
前腕屈側部の手首に近い部位を除く
左右の前腕屈側部9か所(各面積1㎡の正方形)を
2㎝以上の間隔をあけてマーク
1か所を無塗布部

アトピー性皮膚炎の方で
皮膚が薄いためバリア機能が低い部分
かつ、汗がたまりやすく炎症が起きやすい部分で
検証してしていきます。

また、部位での有意差が起きないよう
多くの個所で試しています。

【評価項目】
・対象部位の電気伝導度を測定して、角質水分量の指標とする
・有意水準5%とする。
※電気伝導度:物質中の電気の流れやすさ
       水分保持時には高い値を示す。

電気伝導度の増加量は一般的に
保湿の指標
にも用いられております。

電気伝導度と保湿の関係性も
とても重要となってきますね。

【遵守事項】
1)他の外用剤の使用は禁止
2)朝の入浴禁止
3)刺激物(カフェイン等)摂取、喫煙、飲酒は避ける
4)過度の発汗伴う運動は避ける
5)入浴時の対象部位へのスクラブ効果を有する洗浄剤禁止

厳密な環境下で試験を行っています。
環境要因をなるべく排除しています。


3-3.試験結果-1(塗布量)

本文献は複写禁止のため
グラフの掲載は省略いたします。

ローション塗布14日後の電気伝導度の増加量
0.5㎎/㎠:30±17μS
2㎎/㎠:40±20μS
3 ㎎/㎠:42±16μS

ソフト軟膏塗布14日後の電気伝導度の増加量
0.5㎎/㎠:39±17μS
2㎎/㎠:41±16μS
3 ㎎/㎠:49±13μS

塗布量間による比較では、ローション・軟膏とも
電導度に有意差は得られませんでした。

過去の試験では塗布量によって
初日から保湿効果に影響を与えていました。

今回は14日間と短期的に見ており
日によっては有意に差がある日もあります。

14日間では塗布量による変化はあまりない可能性がありますね。
過去の研究データとは違う気もします。


3-4.試験結果-2(塗布回数)

ローション14日後の電導度の増加量
1日1回:23±27μS
1日2回:113±45μS

ソフト軟膏14日後の電導度の増加量
1日1回:23±23μS
1日2回:74±51μS

1日1回と比較して1日2回の方が
電導度が有意に高い結果となりました。

4.いつき博士の考察

今回は電気伝導度から塗布量と塗布回数が
保湿効果に与える影響について勉強していきました。

今回の文献からは
以下の2点が読み取れました。

1日1回での塗布量変化による
 14日間での保湿効果の有意差がなかった点


1日1回より1日2回の方が
 より保湿効果が良いと示唆される点

しかし、下記2点を踏まえると
今回の文献が本当に正しいものかも
疑われます。

症例数が5名と少ない点

厳格な基準のため、臨床現場での適応性は?

今回の文献では
効果が得られていますが
また、別の背景によっては
試験結果が変化するかもしれません。

ガイドラインでは
今回の結果からも1日2回の保湿を推奨していますが
1日1回でも毎日継続することが一番大切となります。

忘れてしまってもめげずに
保湿を心がけていきましょう。

《参考文献》
大谷真理子,保湿剤の効果に及ぼす塗布量および塗布回数の検討