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PGTについて専門的な情報

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PGTについて論文などから専門的な知識をまとめてみました。少し難しい内容かもしれません。
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2024年7月の記事一覧

PGT Ⅰ. PGTとは

卵子と精子が出会い受精したのち発生が進むと胚と呼ばれるようになります。PGT(着床前遺伝学的検査 Preimplantation genetic test)は体外受精治療の際、胚を子宮に移植する前に、胚の遺伝子や染色体を調べ、妊娠継続しやすい胚や、病気を発症する可能性のない胚を選ぶという検査です。 PGTの分類 PGTは以下の3種類に分類されます PGT-A(着床前胚染色体異数性検査:Preimplantation genetic testing for aneuplo

PGTⅡ. 発表した論文について

アメリカ生殖医学会の学会誌 Journal of Assisted Reproduction and Genetics 2023年1月号にPGT-Aについての論文を発表しました。 私は神戸の大谷レディスクリニックで長年PGT-A・SRにかかわっていました。大谷では2004年よりPGTを行っており、多くの患者さんの貴重な治療成績が蓄積されていたのですが、学会などで発表しようとしても、産科婦人科学会の取り決めに反して実施している検査、治療については、日本ではどの学会でも発表する

PGT Ⅲ. PGT-Aの有効性 はじめての体外受精の場合

2016年の1月1日から採卵を開始し1個以上胚盤胞を育てることができた、2113名の患者さんを研究対象としました。最終移植日2019年3月31日、最終出産確認は2019年12月31日です。 初めて体外受精をする患者さんは1249名(初回IVFグループ)、そのうち453名がPGT-Aを受検(PGT-A)、796名はPGT-Aを受けませんでした(非PGT-A)。 PGT-Aを受けない患者さんは若い人に多いことがわかります。 PGT-A受験者の採卵回数は有意に多い。特に高齢にな

PGT Ⅳ. PGT-Aの有効性 事前IVF不成功経験者の場合

体外受精(IVF)をした経験があり、PGT-Aを受検した患者さんのうち出産の経験のない702名を事前IVF不成功PGT-Aグループ(PGT-A)、初めてIVFを行い1回採卵後出産に至らなかった363名のうち186名は通常のIVF治療を継続されました。(下のグラフのオレンジ色の部分)この患者さんたちを事前IVF不成功非PGT-Aグループ(非PGT-A)としました。 PGT-Aと非PGT-A、グループ間の年齢構成に差があります。 38歳以上ではPGT-A受験者の採卵回数は有意

PGTⅤ. PGT-A受検前後の患者負担の比較

事前IVF不成功経験のある患者さん702名の、PGT-A受検前の治療経過とPGT-Aを受検した場合の経過を比較しました。 PGT-A前後で平均採卵回数に差はありませんでした。 PGT-Aを行うと胚盤胞まで育っても、PGT-Aの結果移植可能胚が見つからないということが起こります。年齢が上がるにつれて移植胚が見つからず移植できずに治療終結する患者さんの割合は増加します。42歳以上の患者さんでは138人中22人(15.9%)の患者さんのみ移植することが出来ました。 移植した患

PGT Ⅵ. 累積出産率の比較

移植当たり、採卵当たりではなく、長期的視野で見た場合のPGT-Aの有効性を評価しようと累積出産率(時間経過とともにどのくらいの割合の患者さんが一人目の子を出産するのか)について、初回IVFグループと事前IVF不成功グループについて、それぞれ年齢グループ別、PGT-Aの有無別に比較しました。 結果 全年齢層で初回IVFグループはPGT-Aを行わない場合の累積出産率の方が高い傾向がみられ、逆にIVF治療不成功経験者のグループではPGT-Aを行った場合の方が累積出産率は高い傾向

PGT Ⅶ. 現在行われているPGT-Aをどう評価するか

前回まで私の発表した論文について解説してきました。 論文で以下の2点が明確にできたと考えています。 ①  初めてIVFを受ける患者さんであれ、事前にIVF不成功経験のある患者さんであれ、背景にかかわらず、全年齢にわたって、PGT-Aを受けた患者さんは受けなかった患者さんと比較すると、移植あたりの臨床妊娠率は有意に高く、臨床妊娠後の流産率は有意に低い。 これは海外の大規模RTC(後方視的ランダム化比較試験)では確認できなかったことです。技術力が一定以上に達していなければ、この