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生命のあるべき姿、睡眠

人生においてもっとも重要な行為、睡眠──

布団重力からは光さえ脱出できない。
あまりの心地よさに、この快楽から抜け出さないよう言い訳を考えてしまう。
「自分の信用を削れば、目の前の堕落的悦楽を思う存分味わえる……!」
この事実を発見したと同時にわたしは人間のクズになった。

この記事は、睡眠がいかに重要かを皆さまに説き、社会平和のために寝坊や過眠を賛美しようではないか、そうした道徳的提案をするものです。
そして睡眠、生命、デエビゴという三位一体について、最新の研究成果を踏まえていろいろ語っていきます。


生命のあるべき姿、睡眠

生命は睡眠を発明したのではなく、覚醒の方が後から発明された

驚くべきことに、生命は「睡眠」というシステムを発明したのではなく、もともと睡眠状態がデフォルトで、あとから脳を「覚醒」させたという仮説が存在する。
確かにその仮説なら、睡眠を迂回できた生物がまったく見当たらないことや、中枢神経が発達してないクラゲや藻類やらも睡眠(と呼べるような活動休止状態)することなど、いろいろと説明ができる。

仮説の根拠はデエビゴの父から

この仮説は睡眠研究の世界的権威、柳沢正史博士の研究室より来ている。そしてこの柳沢正史博士こそデエビゴの生みの親であり、アルファでありオメガ、イエスにとってのマリアに相当する。ヤク中の妄言ではないのでちゃんと聞いてほしい。

デエビゴという天啓

この最新の睡眠薬がとんでもなく効く。ふつう、睡眠薬はゆっくり睡眠におちていくものだが、デエビゴにその曖昧さはない。
ストンと瞬時におちる。
なぜこんな”キマり方”をするかというと、最新の脳科学に基づいた新しい効かせ方を採用しているからだという。まずはその誕生秘話から、順に説明しよう。

デエビゴの誕生

デエビゴが流通しはじめたのは2020年頃、わりと最近である。そしてその誕生には、日本政府による科学技術政策が影響している。私はこれを知ったとき、かなり意外に感じた。

2009年、当時の麻生内閣が、FIRST(ファースト)なる科学技術政策を打ちだした。
どんな政策か?簡単にいうと、選ばれし30人の優秀な研究者それぞれに、約30億円の自由に使える資金を渡す。選ばれたメンバーは山中伸弥博士(ノーベル生理学・医学賞受賞)や田中耕一氏(ノーベル化学賞受賞)など、錚々たるメンツ。そしてその中に柳沢正史博士その人がいた。

世界初の睡眠研究所

日本史上、類を見ないレベルの気前の良さといえるFIRST(ファースト)計画、その支援を受けて、筑波大学に世界初となる睡眠研究所が設立された。余談かつ私見だが、当時の自民党はもう政権交代確実で、なかば投げやりというか、”批判されるだろうが必要だと思えること”を実行したのだろう。なにかプロジェクト・ヘイル・メアリーみを感じる。政権交代がうまく機能した稀有な例で、令和の現在でもこの計画はムーンショットなる計画に引き継がれている。
そうして睡眠研究は着々と進み、睡眠とは単なる休息ではなく、進化と生存の鍵となる生命の基本活動であることが分かってくる。この研究成果を応用して生み出されたのがデエビゴ、依存性のない唯一の睡眠薬である。

睡眠とは何か

デエビゴについて語る前に、まず「睡眠」とは何か、基本的な情報を共有しておきたい。
私の記事の主要な読者層(ヤク中)のために、超簡単な図解をする。

①まず、ヒトの脳にはオレキシン神経という、やかましい神経があり、こいつの影響でヒトの脳は常時覚醒している。

➁そしてこいつが活動すればするほど、疲労物質がたまっていき、ヒトは疲れて眠くなる。

③この疲労物質をドバーっと洗い流す作業が「睡眠」である。

デエビゴが効く理由

デエビゴは、このやかましいオレキシン神経をピンポイントに覆って黙らせる。これまでの睡眠薬は、脳全体をぼんやりさせて睡眠を誘発させるものであったが(そのため記憶が飛ぶ)、デエビゴはピンポイントで効かせる、ここが違う。

■より踏み込んだ説明

■ヒトの脳の奥には視床下部とよばれるパーツがあり、オレキシン神経はここに存在している。そこから脳と脊髄のほとんどの領域に軸索を投射しており、覚醒を維持する信号はここから発せられる。
■ヒトの細胞が何らかの活動をするとき、細胞はATP(アデノシン三リン酸)という物質を分解することによってエネルギーを取り出し、活動をする。このATPは、あらゆる生命が採用している「細胞の基本通貨」と呼べるもので、このATPが睡眠という普遍現象に関係しているのはごく自然に思える。エネルギーを生み出すと、そのぶん老廃物も溜まっていく。この老廃物に相当するのがアデノシンで、蓄積すると脳機能が低下していく。この老廃物を洗い流すためにはグリア細胞(血液脳関門)を開いて脊髄液を脳に流入させる必要があり、その関門は睡眠中※1のみ開かれる。この一連の洗浄システムはグリンパティックシステムと呼ばれる。

※1:ノンレム睡眠。ちなみに、レム睡眠の存在を発見したユージン・アセリンスキー博士は居眠り運転で事故死したらしい。(もちろんこの手のエピソードは「そんなことあるか?」と疑ってかかる必要がある。私は最初に『睡眠の科学(著・櫻井 武)』という本でこのことを知り、さらに調べてみたところ、スミソニアン博物館の記事が出どころらしいことが分かったがそれ以上のソースはなし)

■しかし、これは睡眠を誘発させる機能のひとつでしかなく、脳は他にも睡眠を誘発させるシステムを複数もっている。要は、睡眠の要因らしきものを見つけて、そいつを遮断しても、脳は必ず別の方法で睡眠の方法を見つけるか、死ぬ。睡眠研究はほとんどこのイタチごっこを続けている。生命誕生20億年、いまだ睡眠を「省けた」生物は存在しない。このことの重大性は、もっともっと認識されるべき。

■睡眠研究の方法など

■特定の遺伝子を欠損させたマウスを沢山つくって、その行動を調べる。まず、ES細胞とよばれる万能細胞に遺伝子操作をほどこし、マウスの胚に注入する。このマウスの子が、遺伝子改変マウス(通称:ノックアウト・マウス)として観察の対象となる。要は総当たり的ローラー作戦で、気が遠くなるようだが、そんなことをしていると、ある時、奇妙な行動をするマウスが出てくる。この個体はどの個体だったかな……などと逆算してコードを参照しいろいろ対応つけていく。そのほか、睡眠中の人間の脳派を計測するなど研究手法はさまざま。食事をするとき「生命に感謝」するならば、睡眠薬をのむときも「生命に感謝」するべきだろう、マウスよやすらかに眠れ。

昼夜逆転の再考

「昼夜逆転」という状態があるが、たとえば、ブラジルに留学中の日本人は、日本において夜の時間帯に昼間の活動をしてることになり、それは「昼夜逆転」の状態にあるのだろうか?

否、それは昼夜逆転ではなく、現地の生活リズムに「適応」しているだけだ。

だとすれば、昼になったり夜になったり、太陽と無関係に昼夜を操作できる、外界と断絶した洞窟(自宅の部屋)に住んでいる人間は、昼夜逆転というより洞窟の意思に合わせて身体の状態を「適応」させているとも言える。

そもそも、われわれが昼間に社会を稼働させているのは、電灯を持たなかった先史時代の名残りであり、近代文明により昼夜の区別がなくなった今、もっと自由に社会を運用すべきではないだろうか?

まとめ

睡眠は省くことができない。なぜなら睡眠状態こそが生命のあるべき姿だから。

水が低きへ流れるのは、水がなまけものだからではない。宇宙の法則に従っているためだ。睡眠という、人生の3分の1を占める重大事の実行により、予定に遅れることは充分ありうる。

私は寝坊した人を見て、こう叫ぶ。
「このものを見よ!人々の非難を恐れず、脳という”神秘”の回復を優先させる、オデュッセウスのごときこの英雄を見よ!」
「ヒュプノスの信仰者よ、あなたにご加護がありますように!」

恐ろしい布団重力から理性によって抜け出す人々は尊い。しかし、憎悪を一身に引き受け怠惰の求道者となる、そんな人々もまた尊い。……などと言うと、インディーズの裁判官がやってきて、このように裁かれる。

「寝言で草」「無責任のクズ」「畜生道を邁進する者」「早寝すればいいだけやろ」

これらの罵詈雑言は全てごもっともだが、私は義務よりも睡眠を優先したい。睡眠こそ最優先するべき義務なのだ。

それではおやすみなさい。

『モルフェウスとイーリス』 ピエール=ナルシス・ゲラン

■さらに詳しく知りたい人にオススメの本

睡眠の科学・改訂新版 なぜ眠るのか なぜ目覚めるのか (ブルーバックス)

櫻井武博士(柳沢博士の研究室所属)の著書。
スヤガキ※が表紙になっているせいで初心者向けの本に見えてしまうのだが、脳科学について高度な内容を扱っている睡眠の良書。(※スヤスヤに眠ってるガキ)

参考文献一覧
■最先端研究開発支援プログラム(FIRST)(最先端研究開発を対象とした支援策)
■櫻井武、睡眠の科学・改訂新版 なぜ眠るのか なぜ目覚めるのか (ブルーバックス)
■オレキシンの生理機能の解明(※PDFファイル)
■オレキシンとは?覚醒を維持する脳内物質と睡眠の関係について
■モチベーションに重要な脳部位による睡眠覚醒制御機構を発見(※PDFファイル)
■Sakurai T, et al. Cell. 1998; 92(4), 573-585

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