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【共同マガジン・連載】恋愛ファンタジー小説:星の宝刀月の首飾り~姫巫女してたら盗賊にさらわれて溺愛されてます~


”今夜。星の宝刀を頂きに参る 毒盗賊那亜坐”

「なんですってー!!」
 宝刀の現在の持ち主、瑠璃姫が声を上げて声明文を破りそうになった。
「これ。瑠璃。破っては捜査ができぬ。その紙は父が預かろう」
「はい」
 憮然とした表情で瑠璃姫が声明文を返す。肌はすけるように白く、黒く艶やかな長髪は後頭部で高く結わえられている。その結わえている元にさしてある花簪は瑠璃姫の可憐な姿を一層引き立てていた。
「星の宝刀は代々、姫巫女に継承されるもの。奪われてなりますか!」
「宝刀は父に預けて護衛をつけよう。その方がよいと法務大臣も言っている」
「これを他人に渡すなんてとんでもないですわ。お父様。私は姫巫女。いざとなればこの宝刀で奴をめった刺しにしてやりますわ」
 血気盛んな姫の言葉にはぁ、とため息を父王がつく。
「いうと思って居った。そなたが、星の宝刀の継承者と判明してから心休まる日がない。そのお転婆癖を直して姫巫女として勤めを果たしてほしいのだが……」
「だからこそです。姫巫女だからこそ、この宝刀を死守します。これ以上話しても平行線ですわ。失礼します」
 宝刀を渡すこともなく瑠璃姫は王の間から姫巫女部屋に戻っていった。
「父様もいつのまにころっと忘れたのかしら。星の宝刀は主と認めた人間しか触れないのに。父様も忘れっぽいわね。もう先が短いのかしら」
 おいおい、と周りの人間が突っ込みたくなるような危ない発言を瑠璃姫はする。瑠璃姫が姫巫女と認められたのは十年も前。偶然、先代の姫巫女が落とした星の宝刀を無邪気なお転婆姫瑠璃姫が手にして相手に返したときから始まる。普通の人間には触れられない星の宝刀を持ったということで先代の姫巫女について役割を学び、五年ほど前、正式に現姫巫女として認められ、星の宝刀を譲り受けた。以来、星の宝刀は姫巫女の物として瑠璃姫が肌身離さず持っていた。
「こんなところにある宝刀をどう盗むのかしらね」
 懐から出して宝刀を見る。星というだけあってきらめいている。刀身もさることながらさやにも星を模した螺鈿が施され光を放っている。主は選ぶが、その宝刀がどんな力を持っているかは古来からの姫巫女も現代の瑠璃姫も知らない。ただ、認められた人間しか触れられない。それは女性の姫巫女として認められた者だけ。それだけしかわかっていない。謎を秘めたこの国の宝だった。
「毒盗賊那亜坐ってどんな盗人かしら。顔がかっこいいといいんだけど」
 呑気にも瑠璃姫はそんなことを思っていた。これから身の上に起こることも知らずに……。


あとがき
かつてのメンバーシップのマガジンにしていた話です。もったいないので載せます。あと一話あるんですが、その後は知りません。書きたいけれどむずい。努力します。

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橘優月/切り替え完了/
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