【千字掌編】土曜は初霜の出会い……。(土曜の夜には……シリーズ #26)
絵未は毎朝のルーティン、ジョギングをしていた。まだまだ空は暗い。薄く日が朝の始まりを知らせていた。走っていると前方にランナーの姿で立ち尽くしている人間がいた。
「誰かしら?」
このコースには自分しかいなかったのに……。
ぼーっと考えているとその人物の背中に突っ込んでしまった。
「あ。すみません! 大丈夫ですか?!」
そこに立っていたのは男性だった。年も似たり寄ったりというところだ。
「あ。大丈夫です。すみません。こちらこそぼーっと突っ立ってて」
「それはいいんですど。お怪我でも?」
「いえ、これをスマホで撮ってたんです」
男性が示すところにはクローバーに霜がついて真っ白なクローバーが自生しているように見えた。
「これ、天気のコーナーの画像投稿してみようかなと思って」
「いいですね。でも、今日、テレビ局ニュースしてるんですか?」
「え。あ……。土曜日はしませんね。でもたまに当日じゃない時もあるような気がしたので投稿だけしておきます。月曜日、出てたらお祝いしてください」
男性の素直な笑顔に絵未は引き込まれそうになった。
何考えてるの? 相手には家庭とか彼女がいるかもしれないのに。
「どこまで走るんですか?」
「その先の公園まで」
「じゃ、一緒に走りましょう」
二人はクローバーにもう一度目をやると走り出した。
絵未はゴール地点で男性から投稿する局を聞いていた。月曜日が楽しみだ。出ていれば、月曜のお祝いをするということでSNSの交換もした。この辺りにはちょうどいいカフェもある。絵未はもっとこの男性のことが知りたかった。恋心がもう芽生えていたのかもしれない。
月曜。テレビを見ているとお天気コーナーになった。最初に画像は紹介されるという。じっと見ていると画面が切り替わってあのクローバーが映った。
「あら。採用されたのね。じゃ、お祝いしなきゃ」
絵未は彼に連絡を取った。
その週の土曜日。また二人は会った。今度はジョギングではない。カフェで祝杯をあげていた。
「いいところにカフェが出来ていたんですね」
ホットコーヒーを飲みながら彼、和樹は言う。
「私はここの常連なの」
そう言って絵未はココアを飲む。祝杯を挙げるといってもアルコールは飲まなかった。ないこともないが、カフェで酒を飲むのは気が引けた。その代わりにパンケーキを注文してある。ケーキの代わりだ。
パンケーキが来る。
何気ない話をなんとなくしながらパンケーキを食べる。心地よい空気が流れていた。
また会いたいな。
絵未はそんな風に思った自分にびっくりした。和樹をそっと見ていると視線があった。
「何か?」
「あ。いえ。おいしそうに食べるなぁって」
「絵未さんこそ」
「また、一緒に来たいですね」
「そうですね。初霜が結んでくれた縁ですから」
縁……。
「もしかして彼女とか奥さんとかいないんですか?」
和樹の言葉に含まれている空気に反応して思わず聞いてしまった。
「バツ一なんです。お恥ずかしながら」
「あら。私もバツ一ですよ」
「奇遇ですねぇ」
「ほんと」
二人の視線が交差する。
「始まったわね。また、新しい恋が」
見守っていたカフェの主人が夫に言う。
「本当だ。ここは不思議なカフェだ」
思い出が思い出になるカフェ。カフェ・ノスタルジア。
今日も恋がまた走り出した。
あとがき
初霜の画像を探せば、こんなのが出てきました。で、クローバーに霜という画像は実際にテレビで見てきれいだなーと思ってたんです。まさにお天気コーナーで見て。著作権があるのだろうかと思いつつ、ネタにさせていただきました。たぶん。日をまたいでテレビに出ることもないと思うのですが、この話では日をまたがさせていただきました。そして、またでたカフェ・ノスタルジア。珈琲専門店紫陽花、とか古書店雨柳堂とかBARウィスキー&ローズとか。店が増えていく。そのうち架空の市とか出たり。役所もいいですね。婚姻届けなどで。しかし、眠い。今日も四時間。今夜こそ寝るぞー。
寝落ちしないうちにしめときます。ここまで読んでくださってありがとうございました。
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