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【連載:ロマンス・ファンタジー小説】絆の騎士知恵の姫 第六話 影の側に……。 

 沐浴場から出てきたフィーネペルルを見たヴァルターは何かが違う事に気づく。だが、具体的にはわからない。ただ、昔のように自分の影を心底嫌がっていたフィーネペルルとはまた違った。
「フィーネ」
 心配げにヴァルターが名を呼ぶ。
「大丈夫よ。万事うまく行くわ」
「どこからそんな言葉を口にできるようになったんだい? フィーネ」
「あなたが側にいてくれる限りよ」
 フィーネがもうすぐ夫となるヴァルターと軽口を叩いているつもり……、結局はノロケだが、そんな言葉を口にしてるのをカタリーナは安心して見ている。
「カタリーナ?」
 ゾフィーがそんなカタリーナを見る。
「少し、昔を思い出したの。フィーネは長い間心を閉ざしていたから。あなたのおかげだわ。ゾフィー」
 そう言ってカタリーナはゾフィーを抱きしめる。
「カタリーナ。抱きしめる相手が違うんじゃないの?」
「今はこの組み合わせでいいの」
「じゃ、私も」
 カタリーナとゾフィーを両手を広げて抱きしめる。
「大好きよ」
「両手に艶やかな花だね。フィーネ」
 婚約者のところを離れて女同士の友情を深めていると、焼き餅を妬いたヴァルターが言う。
「もう。こんなことで焼き餅妬かないで。あなたは愛してる、なんだから」
 仕方なく婚約者の腕の中に戻ったフィーネが言う。その際に鍵が落ちて金属音が鳴る。
「あら。いけない」
 アヴリルが拾って渡す。
「ありがとう。鍵を返しに行きましょうね」
 そう言ってアヴリルの手を握る。
「ほら。ヴァルトもアヴリルと手を繋いで」
「こ、こうか?」
 握っていた手の汗を拭いて小さなアヴリル手を取る。
「まぁ。本当の親子みたいね」
 ゾフィーが目を細めて優しく見る。
「その内、それが本物になる日が来るわ」
 言っているカタリーナの口調も柔らかい。
 三人連れを先頭にミレアの元へ戻る。
「ミレア? 入るわね」
「ああ。戻られましたか。いかがでしたか? 聖なる泉は」
「またもや戻ってきたわね、てところよ。鍵を返しに来ました」
 フィーネペルルは鍵をミレアを返す。それをミレアは手に持ってフィーネペルルに返す。
「ミレア?」
「これはあなた様の物です。いずれ役に立つ日が来ますわ。そして、アヴリルをあなた様の側に置いてくれませんか?」
「アヴリルはあなたの娘さんではないの?」
「はい。あなたが来るのを待っていた子です。ですから、お側に。なにか不都合がありますか?」
 子供は心の奥底と繋がる存在。その存在がフィーネペルルの役に立つ日が来ることをミレアは知っているが言わない。ただ、側に、と。その事は今、言っても意味がないのだ。
「わかったわ。アヴリル、本当に私の側で良いの?」
「はい」
 アブリルはこくん、と肯く。
「じゃ、まず言っておくわね。敬語はナシよ。それから私をフィーネと呼ぶこと。なんならお母様でもお姉様でもいいけれど」
 フィーネペルルの無茶振りに一行は真っ青になっている。その年で子持ちか? と。夫はまだいないのに。連れ子結婚だ。
「フィーネ、と呼びます……、呼ぶ……?」
 語尾に戸惑うアヴリルにフィーネペルルが助ける。
「呼ぶわ、ぐらいね」
「は、はい」
「うん」
「うん」
 オウム返しだ。ヴァルターが苦笑いして言う。
「急に言っても無理だ。徐々に慣れてもらおう。私の娘にもなるのだからな」
 ヴァルターはもう娘扱いだ。この二人は……。外野はもうなんとでもしてくれ、だ。いや、幼馴染みの王子達はついて行けてない。
「さぁ、お父様、娘を背負って山越えお願いね」
 ぽん、とフィーネペルルが明るく言う。
「大丈夫だ、帰途は安易に帰ることのできる参道ができてる」
「何ですって?!」
 カタリーナの片眉が上がる。ゾフィーも何言ってるのよ、と弟を睨む。
「巡礼は巡礼。苦難を越えてこその聖なる泉だ」
「わざといじめたわね」
 フィーネペルルの追求には素知らぬ顔だ。
「さぁ。お父様とお母様と一緒に帰ろう。アヴリル」
「お……お……」
「お父様、だ」
「そんなお恐れたこと」
「アヴリル。フィーネの言葉が聞けて父の言葉は聞けないか?」
「い、いえ! お父様!」
「お母様って呼んで」
「はい。お母様」
「可愛いー。アヴリル。大好きよ」
 フィーネペルルがぎゅうっと抱きしめる。
「さぁ。本当に帰ろう。我が城へ」
 三人が歩き始め、あとのおまけが帰って行く。ミレアは微笑んで見送った。いつかフィーネペルルの心の支えになる。影の側には純粋を。ミレアの役目の一つが今、終わったのだった。


あとがき
ストックはここまで。現在、千字単位の別のロマンス・ファンタジー小説を執筆しています。訳ありのストック載せながら執筆となります。訳ありの続き載せて大丈夫か、と思いますが、覚えてない方のためにあらすじも考えております。どうあらすじをまとめるかで困りますが。長すぎる。あの話は。再掲してたら時間がいくつあっても足りないため、それで我慢してください。これもユングです。今書いてるのもユングが絡んでいます。忘れて書いてますが、あらすじの書類を確かめながらの執筆になってます。が最近、それから逸脱したエピソードが。チャットGPT様の思惑とは全然方向が違う。書けるんだろうか令嬢モノ。漫画を読んではいますが、ちょっとずつなので頭はほぼエッセイ。か陽だまりの姫。一日一話というのがみそでして。今月買いすぎたのでもう買えません。ひたすらちまちまと読んでます。お気に入りの話が増えているんですが、未読ばかり。そんなに多い話を把握しきれません。あとでまたゆっくりと。明日はエッセイの勉強がお届けできればと思っています。ネタは何もないのですが。明日の仕事でいろいろあるでしょう。それでは、ここまで読んでくださってありがとうございました。

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橘優月/切り替え完了/
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