【再掲載小説】恋愛ファンタジー小説:ユメという名の姫君の物語 第二十六話-ユメ-届いた祈り
前話
椅子に座ってタイガーの片手を握る。暖かかった。生きている。それだけで十分だった。ユメ姫の指輪が外れない私は本当にタイガーの側にいていいの? 国へ帰って一人想っている方がいいんじゃないの?
そんなささやきが私の頭にこだまする。どれぐらい手を握っていただろうか。途中で食事を取らされて、またタイガーの元で祈って、また、もう一人の私と会話する。ふと気づくともう夜中だった。もう、三日目かしら? あの日から。いつの間にかうたた寝してしまったらしい。タイガーの手を握り直す。すると、少し、力がこもった。
「タイガー? 目覚めたの? わかる? ユメよ。あなたのロッテよ。タイガー、お願いだから目を覚まして!」
私が騒いでいるのを聞きつけた看護師達に引き離される。
「タイガー!」
涙が飛び散った。
「ッテ……? ロッテ?」
引き離してしていた看護師から離れてまたタイガーの手を握り直す。
「そうよ。ロッテよ。目覚めたの? 痛い? 大丈夫? 何か欲しいものはない?」
瞼が何度か動くと開いた。
「そんないくつも言われても困るよ。君に話したいことがあるんだ……」
「姫様!」
また看護師に引き離される。
「医師を呼んで会話を許可されればしていただきます。とりあえずは別室へ」
「嫌よ。タイガーの側にいたいの。愛してるの!」
「このタイミングで聞きたくはなかったな……」
かすれた声でタイガーが言う。
「ロッテ。少しだけ待ってくれ。必ず、側にいさせるから」
「ホントよ? ウソ言わないでよ」
「ああ。だから君は一度休まないと。寝不足はお肌の敵だよ」
「タイガー! 私は本当に……!」
「わかってる。あとでもう一度愛してるって聞きたいから今はゆっくりして。君、姫に休んでもらえる部屋を用意してくれる?」
「はい。さぁ。姫様。王子様も仰ってますから」
「わかったわ。ほんの少しだけよ」
幾分か落ち着いた私に看護師達がほっとする。私は仮眠を取りに別の部屋へ行った。去り際、サクラの樹を見る。
大丈夫だ、そう言ってるように見えた。
ベッドを用意されて、私は無理矢理寝ることとなった。だけど、横になっても目が冴えて眠れなかった。あのままタイガーと会えなくなったら……。それだけで恐怖がこみ上げる。そんな精神状態なのに、私は付き添いで眠れなかった分、すぅっと眠りに入っていった。
どこかでタイガーの声がする。
「ロッテ! 見つけたよ。どこにいたの」
「どこにってあなたの隣で祈り続けていたのよ」
「俺も祈ってた。ロッテが悲しまないように、と。どんなことになっても」
「そんな悲しい事言わないで。あなたを失えば私はもう死んだのも同然よ」
大げさな、ともう一人の私が言う。でも、涙がこぼれ落ちる。それをタイガーがすくう。お互いに、こんなに想い合っていたとは夢にも思わなかった。恐ろしいグレートマザーの後ろにはアニマアニムスの若々しい恋が隠れていた。
「早くおいで。待ってるから……」
「タイガー!」
そこではっと我に返った。眠っていた。どれくらい眠っていたのかしら、脇を見ると姿見があった。まぁ、こんなに髪が乱れているなんて。綺麗にしてタイガーに会おう。そうすればきっとタイガーも良くなるわ。ウキウキした気分で私は身支度を始めたのだった。
あとがき
歯の浮くようなセリフが飛び交いつつあります。ロッテの告白はなんなんでしょう。書いてた時、何も思わなかったんでしょうか。まぁ、あの後は物語の中枢の話にもなるんですが。訳ありのネタバレになっちゃうかもしれません。もともと降下現象はそう言うことですから。あとがきはこの辺で。これは続きが面倒かもしれません。その前にスピンオフを入れたいのですがカバー絵を作らないといけないので困っております。どういった画像がいいか思いつかないんですよね。クリエイターフェスに合わせて載せるつもりです。また載ったらよろしくお願いします。
ここまで読んでくださってありがとうございました。