La belle au bois dormant~序~
その昔。
世界は、女神によって平和に保たれていた。
女神はその地に生きとし生けるもの全てを愛し、育み、そして守ってくれる存在だった。
けれど女神に愛されるためには、自分たちから女神を愛さなければならない。
そうして厳しい戒律を守り、信仰を貫いた者たちだけが『至上の幸福』を手に入れることができるのだ。
その大陸に住む人々は、そう教えられて育った。
けれど、非理性的な信仰は、科学の進歩と共に廃れてゆくもの。
そして、戦いを生むものだ。
平和を愛せよと謳う女神信仰ですらそれは同じで、間もなく大陸は戦争や内乱で溢れた。
女神信者の数は圧倒的だったが、それでも綻びは生じてくるものである。
間もなく、一人の少女が、女神信仰に異を唱えた罪で死刑になるべくトリアジン国へと送還されてきた。
死刑執行の直前、最期の言葉として、少女はとある『魔法』を歌った。
その『魔法』は死刑場に集まっていた人々全てを魅了し、彼女はあっという間に解放され、後に反女神信仰の象徴としてその頂点に立つこととなった。
そしてその少女のもとに集まった反女神信仰者の人々は、女神信仰の賜物である教会やそこに暮らす人々を次々と殺めていったのだ。
少女は、死刑場で着ていた衣服の色から、『黒き魔女』として女神信仰者に恐れられる身となった。
世界は血と恐怖に包まれ、女神信仰は徐々に廃れていった。
そんな時、どこからともなく18人の男女が現れた。
彼らは『黒き魔女』を封印し、この宗教戦争を終結へと導いた。
魔女が封印されたのは、アストゥリアス国とネルーダ国の境界線の何処か。
封印を成し遂げた彼らは、オーロラ姫やデジレ王子を始め、皆両国いずれかの出身であった。
そうしてこの後に二国は、大陸の中でも特に優位性を持つようになったのである。
けれどそれは、二国間の溝が深まる結果を招いた。
国境間の対立は激しさを増し、オーロラ姫の崩御によりとうとう戦争にまで発展した。
平和を重んじるオーロラ姫の言葉は忘れ去られ、そして二国は対立したまま長い時を過ごすこととなる。
魔女が再び目覚める、その時まで。