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アリーチェ・ロルヴァケル『無垢の瞳』2022 - いたずら心満載のクリスマス映画短編

スーパー16と35mmフォーマットで撮影され、第75回カンヌ国際映画祭でプレミア上映。第95回アカデミー賞短編映画賞にノミネート。アリーチェ・ロルヴァケル、『夏をゆく人々』も『幸福なラザロ』も大好きなのに新作『墓泥棒と失われた女神』を見に行くには命がけすぎる(暑すぎて)とおもって見に行けずにぐずぐずしているあいだに短編『無垢の瞳』を観た。

第二次世界大戦中のイタリア、カトリックの孤児院でのクリスマス。ある女性が修道院に寄付をした卵70個を使ったケーキ「ズッパ・イングレーゼ」をめぐる洒脱なコメディ。20世紀を代表するイタリア人作家エルサ・モランテが友人ゴッフレード・フォフィに送ったクリスマスの手紙から、物語のインスピエーションを得ているということだった。軽快な37分。遊び心にあふれていて、途中、19fpsのサイレント映画モードになったり、スーパー16と35mmのフォーマットを混ぜたりとこの映画自体が好奇心旺盛だ。

戦時中のカトリック系女子校を舞台にクリスマスケーキを巡って描かれる、無邪気さと欲望と幻想の物語。原題の“Le Pupille”はラテン語のPupilla(小さな女の子)に由来する。20世紀を代表するイタリア人作家エルサ・モランテが友人ゴッフレード・フォフィに送ったクリスマスの手紙から着想を得た。

https://www.fashion-press.net/movies/24538

途中、みんなで戦争プロパガンダのラジオを聴きましょう。という時間のなかで監視の目が離れた一瞬の隙に、主人公の女の子がうっかりラジオに触れてしまうと、チャンネルが変わって「Ba-ba-baciami piccina」が流れ始める。監視の目がないあいだ子どもたちはこれを嬉しがって、歌って踊る。このシーンのあまりの無邪気なすばらしさに目を奪われる。

悪い言葉を放った子どもたちの口のなかを石鹸で洗って清めても、彼女たちの思考は自由である。課された教えや教訓を超えて、愛と痛み、好奇心、ひらめきと共有、未知のものとの出会いやハプニングを讃歌する。とても愛らしさのあふれた映画だった。ルールを作ること、若者を定義すること、それでも大人たちの思惑に反し、子どもたちは子どもたちとしてそこに存在していた。最後に女の子たちが歌う「この物語の教訓は?/さあわからない」と歌うのがとても良い。少女たちにとって(そして、クリスマスなのに仕事をしなければならない煙突掃除人たちにとって)教訓よりもケーキが大事。それはほんとうにそう。


https://www.fashion-press.net/movies/gallery/24538/30811

2022年短編|37分|イタリア|Le Pupille
監督・脚本:アリーチェ・ロルヴァケル
製作:アルフォンソ・キュアロン、カルロ・クレスト=ディナ、ガブリエラ・ロドリゲス
撮影:エレーヌ・ルヴァール

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