飛蚊症は突然に〜あれから1年経つけれど
それは、1年前のある日、突然目の前に出現した。
最初は、伸びた前髪が視界を邪魔しているのかと思った。けれども、髪を払っても払ってもその黒いモノは消えない。
次は、コンタクトレンズの汚れに違いないと思った。しかし、レンズを洗っても外してもそれは消えない。
これは、もしや。かの有名な「飛蚊症」というやつでは? そう思ってはみたものの。目の前の黒いモノは、虫に間違えるような黒い点ではなく、黒は黒でも輪っかの形なのだ。どう見ても「蚊」には見えないが。こんな飛蚊症もあるのだろうか。
わからないので、さっそくググってみた。
そこで、飛蚊症には様々な形状があることを知る。《ゴマ状 虫状 糸くず状 タバコの煙状》など。
私の場合は「タバコの煙状」というやつです。ただの点ではないので大きいのです。鬱陶しさMAXです。
目の中の輪っか状の浮遊物は、目の動きに合わせて、ゆるゆるとちょっと遅れてついてくる。まばたきをしても消えない。
調べれば調べるほど、飛蚊症に違いないという確信が深まってきたものの。ただの飛蚊症ではなく、重篤な病気が潜んでいる可能性もある。素人判断は禁物だ。
翌日、かかりつけの眼科医に行って症状を訴えてみた。
たぶん飛蚊症だとは思われるが。他の病気の可能性を調べる必要があるということで、各種検査を行うことになった。
結果。異常なし。「飛蚊症」確定である。
先生の説明によると、その黒いモノは年をとればたいてい誰の目の中にもいくつも彷徨っているもので。その黒いモノの位置によって、黒い影として目の前に見えるようになってしまう、ということだった。
一言で言うと「目の老化」と言うことらしい。
はい。出ました。結局これも「加齢」が原因ですね。もう聞き飽きました。いつの頃からか、次々と起こる体の不調の原因の大半はたいてい「加齢」です。結論「加齢」です。
飛蚊症は急激に悪化しない限り心配はいらないものであると言われている。けれども、特に有効な治療も存在せず、自然に任せるしかないらしい。
先生曰く「運がよければ、気にならない位置に移動して消えてくれることもあります。消えずに残る場合でも、そのうち慣れてあまり気にならなくなります」とのこと。心配はないとはいえ、厄介な症状である。
明るい場所や白い物を見た時に、黒い影はよりくっきりはっきりしてくる。鬱陶しいことこの上ないが、これは飛蚊症の典型的な症状らしい。
リフォームが完成したばかりの我が家のバスルーム。壁とバスタブの眩しい白さが、ここにきてアダとなるとは。1日の疲れを取り、くつろぐはずのバスタイム。四方八方白い物に囲まれて、どこを見ても黒い浮遊物が気になって。くつろげないです……。
あれから1年。
その黒いモノは、その後特に変化もなく、そこにいる。若干以前より色が薄くなったような気はするが、気のせいかもしれない。結局、先生の言う「運がよければ」という喜ばしい事態は発生せず。黒いモノは今も私の目の前に存在している。
聞けば、友達も何人も「黒い厄介なモノ」を抱えていることが判明した。黒いモノは「加齢」を象徴するスタンダードというわけだ。つい最近黒いモノが出現して戸惑っている友もいれば、もう何年も複数の黒いモノを抱えたまま生活している友もいた。
今の私の目は、近視、乱視に加えて、年とともに進行していく老眼により、近くも遠くもどちらもよく見えない、という最悪な状態だ。その上、突然現れた飛蚊症。そうでなくても三重苦なのに。こんな加齢オプションはいらない!!
そして、ジワジワと進行していく老眼と違って、飛蚊症の出現は、本当に驚くほどに突然なのだ。こんなに突然現れたからには、突然消えてくれてもいいと思うのだけれど。どうやらそううまくはいかず、長いつきあいになりそうだ。
ところで。最初に先生が言われたように、慣れてくると本当に黒いモノが気にならなくなるのか? と問われれば。答えは、YESでもありNOでもある。
実際「慣れ」というのは確かにあって。日常生活の中で何かに熱中していて意識がそこにない時には、黒いモノの存在を忘れていることも多い。ところが、何かをキッカケにいったん気になり始めると、そこに意識が集中してしまう。黒いモノに焦点が合ってしまうからか、振り払いたくなるほど邪魔になってくる。
飛蚊症は、今のところ有効な治療法が確立していないので、「放置」が基本である。いつかどこかに移動してくれるかも、という淡い期待を抱きながら。共存していくしか道はない。決して仲良くなりたくはないが、追い出すこともできない。
トリックアートがそうであるように、人間の脳というのはダマされやすいものらしいから。「私の目の前に黒いモノなど存在しません」と固く思い込むことができれば、今より少しは楽になるのかもしれない。
電化製品と同じで耐用年数が切れかかっている、ということなのか。体の小さな不具合が次々と発生する今日このごろ。
〜飛蚊症〜
また1つ厄介なものを抱えてしまった。
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