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【アサクリ】教会比較:ナナミンスター(修道女の大聖堂)【ヴァルハラ】

ゲーム「アサシンクリード ヴァルハラ」に出てくる教会について、現地写真との比較やシロウトの雑感をテキトーにだらだらと書きます。

今回はウィンチェスター「修道女の教会」(The Nun's Minster) について。(※便宜的に「ナンミンスター」「ナナミンスター」等の表記も使っています)

オールド・ミンスター」についてはこちら
ウェアラムの教会や砦についてはこちら

2021年10月19日にディスカバリー・ツアー (観光モード) が公開される予定ですので、きちんとした歴史ネタはそちらなどをご覧いただければと思いますが、とりあえず「解答集」が出る前に自分がニマニマした所をメモしておきたかったので...。間違ってたらすみません。

【!注意!】ゲーム後半のネタバレを含みます。
筆者のアサクリのプレイ経験は「無印」と「ヴァルハラ」のみです。
※ 他の記事と重複する部分もあるかと思いますが、これはサビです。
固有名詞などが日本語版と微妙に異なる場合があります。
note の引用機能 (この注意欄のような色付き背景) を注釈/コメントに使っています。


♰ 修道女の大聖堂 (The Nun's Minster)

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ゲームの日本語版では「修道女の大聖堂」、英語版では「The Nun's Minster (ザ・ナンズ・ミンスター)」と表示されるウィンチェスターの教会ですが、
現地や各資料でよく見る名称は
ナナミンスター/ セント・メアリ(ズ)・アビー/聖マリア修道院 (Nunnaminster/ St. Mary's Abbey)」です。

また、オールド・ミンスターと異なり、870年代当時はまだ建ってません

年表的には、
アルフレッド王の妻のエルスウィス (Ealhswith) が (おそらく) アルフレッドの死後の 899年頃に、修道女達 (ナン) のために設立を開始。
しかしエルスウィスもその完成を見ずに、902年頃に死去。
902~903年頃に息子のエドワード長兄王 (Edward the Elder) が完成させた...という流れなので、
ゲーム上 (~787年) より少し先の話です。

また、ゲーム上では石造りの立派な建物ですが、当初は木造だったので、オールド・ミンスターと同じく、これも後年に規模拡大した際のものを採用していると思います。

建屋完成後の遍歴
960年代中頃:老朽化で「廃墟のように」なっていたので建て直し。
・ノルマンの征服後の1080年代頃聖マリアと聖イドバーガ (Edburga, エルスウィス&アルフレッド王の孫) を祀る修道院として建て直し。
12世紀:「内戦 (The Anarchy)」で焼け落ちてまた再建。
...などありつつ、イングランド内でもっとも景気のいい修道院の一つに。が、ご多聞に漏れず
1538年にヘンリー8世の修道院解体で解散、建屋も解体し、終了。
現在は跡地が「アビー・ガーデンズ」(Abbey Gardens) という公園になっています。
参考:「ナナミンスター」を解説しているサイト (英語)

ゲーム内の「修道女の大聖堂」の俯瞰図。豪華。
前述の通り、903年頃の初期の姿ではなく、10世紀およびノルマン時代に建て直した姿に近いです。以下説明。

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▼ 実際のナナミンスターの遺構の展示パネルにある、恐らく初期の姿の予想図。これがどの程度正確なのか未確認なのですが、浅い石の土台に木造で建てられていた様子が描かれています。

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ナナミンスターの遺構。雨ざらし。(現地写真は2011/2018年撮影)

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この屋外展示は現在のウィンチェスター中心部のギルドホール (Guildhall, 右のレンガの建物) の東、アビー・ガーデンズ (公園) の片隅にあります。アルフレッド王の銅像のすぐ近くです。
参考ストリート・ビュー

▼ 別角度。1981~83年に行われた発掘調査の結果を、この建屋の身廊 (Nave) の一部を切り取った展示と説明パネルで示しています。

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▼ 上写真の赤いタイル片で示されているのは、903年頃の最初期の「エルスウィスの教会」の壁部分、西側のアプス状の正面~身廊の一部ですよ、という説明パネル。
奥側に見える石棺 (sarcophagus/gi) のあたりに、エドワード長兄王の娘で後にナナミンスターの聖人となった聖イドバーガ (St Edburga/Eadburga) の墓 (※Centwine 王の娘の聖イドバーガ [Edburga/Bugga] とは別人) があった。

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なおイドバーガの墓は963年の改築時 (下記) に移設されたので、これらの石棺は無関係っぽい。13世紀頃のものなど。

「西正面」について素人メモ:
オールド・ミンスター (現在のウィンチェスター大聖堂) もですが、西側が「正面 (表)」なのは何故だろうと思ったら、教会は基本的に東側を向いて祈るように=東端 (奥側) に祭壇を配置するように建てるため、らしい。知りませんでした...。
で、東向きに建てる事を表す教会建築用語「orientation」は、ラテン語の「東 /oriens」由来。フランス語を経由して英語に。なるほど。西向きの場合は「occidentation」。

▼ 上写真の灰色の石 (flint) で示されているのが、964年にウィンチェスター司教エセルウォルドが石造で再建した修道院、という説明。
ゲーム上の「修道女の大聖堂」はこれがベースでしょうか。
「イングランドでこの回廊 (cloister) つきのレイアウトを始めたのはウチが元祖!」みたいな事が書いてありますが、ゲーム上は回廊無し。

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蛇足:回廊はないですが、南側 (向かって右側) の道路の感じは「Nunnaminster: Saxon and Medieval Community of Nuns」(by G.D. Scobie et al, 1993) の表紙にある予想図を想起させます。

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余談:ゲーム上のウィンチェスターの道路は、全体的にアルフレッド王が区画整理する前、という印象。
ナナミンスターは区画整理後に建ったので、時系列や上記の予想図の正確性についてはよく判りませんが、雑感ということで。(脇道に逸れすぎですみません。)

▼参考:区画整理後のウィンチェスターのジオラマ。
オールド・ミンスターとニュー・ミンスターが並んでいるような感じですが、サイズ感が微妙に違うのでノルマン時代かも。詳細忘れました。
(ウィンチェスター・シティ・ミュージアム, 2011年撮影)

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ノルマン時代、1108年の「聖マリア修道院」の頃。
ロマネスク様式で建て直し、身廊の幅も広げた。上の写真 (全景) に見える柱の跡はこの頃のもの。
1番奥がアプスになっており、ゲーム上もこれに準じています。ただし身廊の幅は上記のサクソン時代のものなので、エセルウォルド版+データ的な都合で内陣をアプスにした、ハイブリッドなのかも。

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▼ 位置関係。(西が上)。かなり大きく発展したのがわかります。

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【ついでに:アビー・ハウス】
現在のナナミンスター遺構のすぐ横 (同じ公園敷地内) に「アビー・ハウス (Abbey House)」 という建物があります。
これは 1750年頃に修道院の跡地に建てられたタウンハウスで、1790年代はフランス革命を逃れてきた修道女達が住んだりしていたものの、かつての女子修道院とは直接のかかわりは無いっぽい (?) です。
現在は市長のオフィスになっています。(市長の公邸があるのは珍しい)

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で、ゲーム内のナンミンスターの敷地内、北東の位置 (下写真では左上) に、もう1つ建物があります。(※ミニクエストで登る建物)
位置的に「アビー・ハウス」の見立てじゃないかと思うのですが、どうでしょうか。(修道院にも実際にこういう建物があったかもですが)

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そう考えると、上の写真の下部 (ミンスターの西側) にある小さめの建物は、現在のギルドホールの見立てと考えることも。
▼ 現在は立派なギルドホール。

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【蛇足な現地情報】
▼ アビー・ガーデンの全景写真を撮ってなかったので、アビー・ハウス (市長舎) の横にあるご自慢の公衆トイレなど...。
2009年にまぁまぁな予算で建て直したらしく、当初は音楽が流れていたらしいですが、2018年に入った時は無音だった気が。複数の市民から「予算かけ過ぎ」「ファンシーすぎる」というようなコメント (婉曲に) を聞きました。

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▼ アビー・ガーデンの横にあるアルフレッド王の像。(2011年)
ウィンチェスターの顔ですが、中心部ではなく、かつて「イーストゲート」があったあたり (シティ・ミルの手前) から街を見守っています。

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ナンミンスター内部

▼ ゲーム上のナンミンスターの内部
施薬院になっています。ノルマン時代のような側廊はまだなく、 10世紀の「エセルウォルドの修道院」かな~という感じです。
(※この左側にいるアルフレッド王っぽい人は、通常はここには居ません)

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施薬院になっている歴史的背景は (知識不足で) 未確認ですが、ゲーム上の他の修道院も同様なところが多いので、当時は実際に疫病も定期的に流行っていたこともあり、そういう事なんでしょうか。「ディスカバリーツアー」に期待。
あるいは上階にあるメモの布石なのかも。

余談:「王の秘密」メモについて

▼ ナンミンスターの尖塔の秘密の調合部屋っぽい所にある「王の秘密」メモ。アルフレッド王は痔持ちだった!

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...というのは秘密でもなんでもなく、アッサー (Asser) が書いた有名なエピソードの一つなので、アルフレッド王信者的にはニヤニヤするところです。うっかりするとアルフレッド痔疾王とか言われかねなかった。(※)

「肉欲を克服するため」というのもアッサー先生がおそらくアルフレッド王本人から聞いたこととして書いており、公式です
ドラマ「ラスト・キングダム」でもアルフレッドは最初、下半身のユルい王弟として登場してました。

※「痔」の解釈:
実際に痔だったかはあくまで推測です。
アッサーがラテン語で著したアルフレッド王の伝記 (Vita Alfredi/ Life of King Alfred) の該当箇所 (74節) では、
『王は長年に渡る奇病に苦しめられており、人によっては (少年時代から症状のあった)「フィクス」("ficum": ficusの対格) だ、という人もいる』(大意) という書き方のようです。「ficus」はイチジクを意味する痔疾の隠語。

【アルフレッドの病歴】
アッサーの書き方が前後したりして微妙にわかりづらいのですが、解釈のひとつとしては、
・少年時代から信仰に篤かったが、思春期あたりに肉欲が克服できないのが悩みだった。
・一方、ハンセン病 (「癩病」) や失明などの、当時としては「不具」として軽蔑されるような「体の外側に現れる」病気になることを恐れていた
(というか性病を恐れてたんじゃないかと邪推しますが、時代的にこれらの身体障碍が身近なので、単純に恐怖を感じていたのかも)
・...ので、肉欲を断って信仰に準じるため、神に「不具」とならない程度の試練」を与えて下さるように祈ったところ、めでたく内科の「フィクス (痔疾)」になった。
・が、これも結構しんどく、一時は世を儚んでさえいたが、またまた祈りによってこの激痛も治った。一安心。(ここまで独身時代)
・ところが20歳頃、エルスウィスとの結婚式の披露宴でふたたび激痛に襲われ、以来それが続いている (今ココ)、というもの。

前述のように、この結婚式以降の持病痔かどうかは不明ですが、いずれにしても消化器系の病気だろうということで、現在では痔疾説の他に、症状の似ているクローン病 (Crohn's disease) などの慢性の大腸炎では、と推定する人もいるようです。

▼ おなかの痛そうなアルフレッド王を心配するフルケ...というのはこじつけですが、ゲーム上のアルフレッド王、初登場時は顔色が悪くて体調が悪そうなのが最高ですね!

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◆ エルスウィスとエセルフレドのミニイベント

ついでに。
ゲームではこのナナミンスターで、エルスウィスと娘のエセルフレド (Aethelfraed) が登場するミニクエスト (ワールドイベント) があります。
メインシナリオに出てこないこの 2人がちゃんと登場したので、とても嬉しかったです。アルフレッド王に言及しているのも最高です。

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エルスウィスは当時のアングロサクソン女性らしく、頭を布で覆った姿なのもよかったです。
▼ 衣装参考: ニュー・ミンスター・チャーターに描かれた聖母マリア (左)。
ナナミンスター同様に964~966年頃に司教エセルウォルドが教会改革を行った時のもの。
Cotton MS Cotton MS Vespasian A VIII f.2v © The British Library Board

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▼ エセルフレドにプロポーズした男の子エゾベルド (Esobert) は残念ながら結婚相手にはならない事がわかっているので (※) 少々切なくもありますが、幼年時代の微笑ましいエピソード。

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エセルフレドは後にマーシア公エセルレッド (Ethelred of Marcia) と結婚。念の為。
この「エゾベルド」(Esobert, 英語版の発音はエソバート)、「ラスト・キングダム」の主人公でエセルフレドと親交を深めるウートレッドのサクソン名オズバート (Osbert) への目配せでは、というコメントも見かけました。なるほど。

◆ 修道女と刺繍とバイユー・タペストリー

さらに余談。 9世紀当時はわかりませんが、10~11世紀頃の修道女達の名産品 (?) が「刺繍」で、
例えばダラム大聖堂にあるアセルスタン王から贈られた「聖カスバートのストールとマニプル (腕帛)の刺繡は、ウィンチェスターで制作された、つまり王妃などの指示のもとにナンミンスターの修道女達が縫ったと推定されているようです。

同様に、「バイユーのタペストリー」(Bayeux Tapestry) も、一部はウィンチェスターで制作された説があるようです。
未読ですが参考:
The Bayeux Tapestry: The Life Story of a Masterpiece by Carola Hicks

【2022年4月追記】
ドラマ「ラスト・キングダム」のシーズン5 (エピソード 3, 4) で、このへんの刺繍製作の様子などをアレンジして描いていました。
年代や詳細はズレていますが聖カスバート関連もチラっと盛り込んでおり、ニヤッとします。

過誤などご指摘いただければ幸いです。

おわり。

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アルフ巡礼者 / Alf Pilgrim
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