見出し画像

塩田千春 つながる私(アイ)、魂がふるえる からの昇華/物質世界と精神世界を行き来する霊性アート

個展サブタイトルのちがい

近年の国内開催の個展サブタイトルは次のようになります。
「つながる私(アイ)」
は2024年大阪中之島美術館のもの。
2022年 別府では「巡る記憶」
2019年 森美術館の個展では「魂がふるえる」でした。

私の感想

今回の展示は、再生と未来につながる希望を感じました。
2019年時は、癌再発の直後でもあり「たましいってどこ?」という生と死も暗示されたものを感じました。
2024年の展示では赤い糸の中に1,500枚以上のメッセージがつながり円環となり昇華しながら、また紡いでいくイメージがあります。
「魂がふるえる」から「巡る記憶」へ。
そして「つながる私(アイ)」へ。
ここにはいない誰かの記憶がつながり輪となって未来へ向かっているように感じました。

《つながる輪》2024
円環があらわされています

糸の作品

かつて絵が書けなくなった時期があり、それを乗り越え、絵画で線を描くように空間に糸を張ること、そこにつながるモノにより不在の中の存在をあらわすようになります。
この糸のシリーズは、糸の持つイメージと込められた意味が、ビジュアルのインパクトもあって、より多くの人に知られるようになりました。

大阪中之島美術館《巡る記憶》の会場説明テキストがそれらを端的に表現していると思います。

ここにはいないひとびとの記憶が糸によってつながれて、わたしたちの目の前に「不在の中の存在」として示される。

《巡る記憶》キャプションより

糸の色の意味

黒は広大に広がる深い宇宙を、赤は人と人をつなぐ赤い糸、または血液の色を表すといいます。(2019森美術館図録)
白は循環する大地のエネルギーです。

今回の個展で白い糸を使った《巡る記憶》の白い糸は水が循環した蒸気であり、水滴はここにいないひとの記憶。
白い糸はそれをつないで、見えるはずの無い誰かの記憶を見えるように可視化したものです。

《静けさの中で》2019
《インターナルライン》2024
《糸をたどって》2022
あいち2022一宮会場
紡績工場の跡地に糸がつながる展示
《巡る記憶》2024
《巡る記憶》2024
ここにいないだれかの記憶が滴となって水紋がひろがる


魂がふるえる

2019年、森美術館の講演会で話す塩田千春は、魂はどこへいくのか、死ぬこと、生きることへの思いへの言葉が印象的だったことを覚えています。

癌の再発治療により、身体の部位がバラバラになり赤い糸がそれをつなぐモチーフが登場するようになりましたが、それらをあらわした作品は今回の展示にもありました。

《他社の自分》2024
《Cell(細胞)》シリーズ
あいち2022一宮会場
看護学校跡の教室での展示

今回の中之島では展示がありませんでしたが、森美術館の展示にあったビデオ作品《魂について》2019は、当時の塩田の精神面をあらわしているものだと感じました。
住んでいるドイツで撮影したもので、塩田さんの娘さんと同じ歳の小学生に、魂についてヒアリングしたものです。
子供ながらに(子供ゆえに?)純粋に話す内容が良かったのです。
このビデオ内容は森美術館の展覧会図録にてテキスト化されています。

《魂について》2019
森美術館の展示風景
《魂について》2019
会場キャプション

とりわけこの作品が印象に残っている理由は、森美術館の講演を一緒に聴講したひとがその後、魂になってしまったことにあると思います。
生きていた時の記憶はもう断片でしかありませんが、それらはどこにつながって行くのか。
そんなことをどうしても、つなげて考えてしまうのです。

ここにはいないひとびとの
さまざなメッセージ

「生と死」という人間の根源的な問題に向き合い、作品を通じて「生きることとは何か」、「存在とは何か」を問い続けています。
本展は、全世界的な感染症の蔓延を経験した私たちが、否応なしに意識した他者との「つながり」に、3つの【アイ】-「私/I」、「目/EYE」、「愛/ai」を通じてアプローチしようとします。

「つながる私(アイ)」展覧会概要から(部分)

「生と死」は伝統的で深遠なテーマのひとつです。
物質世界と、こころや思いなどの精神世界を可視化するアートは、「霊性的アート」といえると考えています。

大阪中之島美術館「塩田千春 つながる私(アイ)」はまもなく2024年12月1日迄です。



いいなと思ったら応援しよう!