【広島商人】知られざる戦後復興の立役者(13)板ばさみ
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13 板ばさみ
朝風がしみじみと秋を思わせる十月二十日、住宅営団の土屋課長あての書類を貰いに、向洋の仮県庁舎にやってきた。
そしてその書類もできたので、私は帰路につこうとしていた。
そこへ菅野氏がきて、
「久保さん、罹災者に配給する敷物はどうして製作する考えですか」
と私に質問した。
「同じ出すなら、寒くなる時節も近づいたので、
早急に製作のうえ配給する段取りです」
「どんな製品を出す考えで?」
「課長さんの指示は畳表と畳莛を麻糸で縫合して
簡易な畳とするようにとのことです」
私たちはこの簡易畳を、陸海軍および御用船あるいは戦線の兵士の敷物
などに、大量製作納入の実績を有していた、菅野氏は不機嫌かつ興奮さえ
加えた顔つきで、
「久保さんも承知しておられるように、現今でじゃ畳表は貴重品で
あるからね。
畳表をそんなくだらない、莛などに縫合して製作するなんて、
僕はぜったい反対するよ。
この貴重なる品物は、かならず正式な畳として配給してもらいたい」
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この文章は昭和31年11月に発行された「広島商人」(久保辰雄著)の冒頭です。(原文のまま、改行を適宜挿入) 広島は原爆が投下された約一か…
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