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【広島商人】知られざる戦後復興の立役者(15)心の焔
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15 心の焔
外ははや、うす暗い大気につつまれていた。
丹那橋を渡り、宇品線の鉄道を踏み切り、新開の道路を千田の銅像に向って歩いた。
銅像を左に眺めて御幸橋を渡った。
橋の上からガスタンクをふりかえって見た。
このあたりから臭気をおびた風が、焦土の上を吹き抜けてくる。
荒涼たる焼野原を一人で歩きながら、さっきの悪口と罵倒を考えると、
「私のことがわかっちゃあくれんのか。
それどころか、こうした恥さらしを……」
と、残念な思いが息も身も荒くふるわせた。
「おのれ、この胸の思いを晴らさで……」
と思わず足をかえし、無我夢中で走ってゆく。
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この文章は昭和31年11月に発行された「広島商人」(久保辰雄著)の冒頭です。(原文のまま、改行を適宜挿入) 広島は原爆が投下された約一か…
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