脂質・コレステロール⑥

本日は、コレステロールの薬であるスタチンについてお話しします。

スタチンは、プラバスタチン、アトルバスタチン、ピタバスタチン、クレストール、リバロなどさまざまな名称で処方されています。
まずは、どのようなものか説明します。


スタチンとは?

「スタチン」とは、HMG-CoA還元酵素というコレステロールを合成するために必須の酵素を競合的に阻害する働きをもつ薬剤の総称であり、コレステロール(特にLDLコレステロール)の血中濃度を強力に低下させる作用を持っています。
HMG-CoA還元酵素阻害剤は平成の時代に遠藤章(東京農工大学特別栄誉教授)により発見されました。スタチンは、日本だけでなく世界中の医療現場で最も使用されている薬剤です。スタチン系薬は安全性と有効性に優れ、冠動脈疾患の予防と治療に”革命“を起こした薬剤であるとされており、欧米の医学書でも、「米国で1994-2004年に冠動脈疾患による死亡率が33%も減ったのは、遠藤博士が発見したスタチンのおかげと言って良い」と記載されています(ラインハート・レンネバーグ著『カラー図解EURO版バイオテクノロジーの教科書』講談社)。
でも、このスタチン(HMG-CoA還元酵素阻害剤)は本当に体には良いことしかないのでしょうか?つまり害がないのでしょうか?

スタチン(HMG-CoA還元酵素)の細胞毒性

理科の授業で習ったことを思い出してみてください。ミトコンドリアという細胞の中でエネルギーを生み出す器官があります。スタチンはミトコンドリアに対して毒性を持ち、エネルギー産生を障害し、ほとんどすべての組織に対して細胞毒となりえます。

詳しく説明すると、ミトコンドリアにおける電子伝達系と共役した酸化的リン酸化によりATP(エネルギーの元)がつくられ、 これが細胞のエネルギー源になっています。電子伝達系の必須な成分、CoQ10 とヘム a の合成には、コレステロール合成のプレニル中間体が必須であり、スタチンはこの過程を抑制してATP産生を抑えます。

心筋は絶えず鼓動を続けるため、最も多くのATPを必要とする組織です。スタチンはATP産生を抑えて骨格筋や心筋の障害を引き起こします。スタチンの横紋筋融解をはじめとする筋肉障害や心不全促進作用などには、このミトコンドリア毒としての作用が現れていると理解できます。運動機能の低下がおこれば、冠動脈疾患や心不全あるいは骨折の危険性が 増加すると考えられる。よく、スタチンの薬を内服した後に血液検査でCPK(クレアチンホスホキナーゼ)が高値になる方は、これが原因です。この薬の作用の結果です。なので、スタチンを内服されて体がだるくなられる方は、当然ありえます。

スタチンの弊害

スタチンの弊害として報告されているものをあげると、

  1. スタチンは、動脈石灰化を促進する。(ビタミンK関連での影響)

  2. スタチンは、糖尿病の悪化に寄与する。

というものがありました。まだまだ解明できていないところです。

さらに、以下のグラフを見てください。

低用量シンバスタチンを用いた日本脂質介入試験

これは、日本動脈硬化学会が中心となって行った最初の大規模なスタチン臨床試験です。総コレステロール値が 220mg/dL 以上の人が低用量シンバスタ
チンで 6 年間治療されましたが、結果はこの時代には珍しく対照群なしの研究として報告されました。横軸はスタチン治療後(中)の総コレステロール値で群分けされています。
結果をみると、コレステロール値が 220mg/dL から下がるにつれて、心血管
疾患死、脳卒中死、癌死、総死亡率が上がりました。コレステロール高値群でこれらの死亡率が高いのは、この対象者の中に家族性高コレステロール血症の人が一般集団の12倍多く含まれていたことによると解釈できます。
これを見ると、コレステロール下げると、死亡率など悪いことが起こるというデータになっています。しかし、本人が気が付かないうちにガンにかかっており、低栄養が進行している場合、その影響でコレステロールが低くなっている場合があります。つまり、コレステロールが低くてガンになったのではなく、ガンの影響で低コレステロールになると考えられます。今のところ、スタチンがガンの原因という直接的なデータはありません。

では、スタチン内服しない方がいいじゃないかということになりますよね。

そうです。

内服しなくて済むならその方が良いです。(すべての薬がそうですが)

でも、内服した方が良い人をあげると、

先日、脂質・コレステロール⑤で説明した酸化LDL、sd-LDLが増加していると考えられる場合、つまり、狭心症、脳梗塞、閉塞性動脈硬化症、血管のプラークがある場合などです。その場合、スタチンによりLDLとともに酸化LDL、sd-LDLを一緒に低下させてしまいます。

スタチン内服するのが嫌になった方多いと思います。相談に乗りますので、ぜひ受診の際におっしゃってください。適宜、必要性や代替案を説明させていただきます。

以上で、いったん、コレステロール・脂質の特集を終了します。
また、書きたいことが出てきたら書こうと思います。
次回は、こむら返りってなんだ?ということをお話しさせていただきます。
では、また。

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