本当に出会ったもの
人は信じたいものを信じる。だから私はそうはなりたくなかった。盲目でおめでたい人にはどうしてもなりたくなかった。
彼が死んでもなお私たちは繋がってるとか、いつか会えるとか、来世はあるとか、ツインレイだとか、運命の人だとか、そういう自分に都合の良い耳障りの良さそうなことにばかり目を向けて、
黒いとことか見たくないとこ無意識に目を背けて、信じたいもの信じて生きていくのは馬鹿らしいって思った。それに、私にはそんな資格すらないとも思った。
本当の真実なんかわかるわけないけど、それでも彼の思考に極限まで近いものを知りたかった。
それが事実だから。
彼の思ってたことがどれほど信じたくない残酷なものでも、それをまるまる受け止めたかった。
私と付き合ったことを後悔したとか。本当は浮気したとか。全然力になれない私を本当に嫌ったとか。付き合わなければと後悔したとか。妥協で付き合っていたとか。使えるだけ使ってやろうと思っていたとか。そういうことばかり考えていた。本当はそんなこと1mmも思いたくなかったのに。
でもいつか、事実かそれに近しいものを知れた時に
想像よりはずいぶん良かった。
と思いたかった。
事実を知ってまた傷つくのが怖かった。
彼の死で2度傷つけられてしまうくらいなら自分で自分を何度でも傷付けてやろうと思った。
もうこんなことを考えている時点できっと私たちは恋人としては不充分であるんだと思う。
どちらが死のうが互いが生きていようが揺るがない彼がいることが本物だと思うから。
目に見えていたものが突然失われた時、それでもなお私たちには揺るがないものがあって、思い続けられるものだと思っていた。ほんとうに出会ったものは別れがないと言われるように、いてもいなくても心で繋がっていられると思っていた。
でもそうじゃなかった。
いなくなってからぶれてばかりで彼がどんなだったかも分からなくなった。付き合っていた時に見えていたものを、2人で一生懸命信じていたものを、ひとりで必死に壊していた。
でも、出会わなければ。なんて思わなかった。
きっと何度出会っても好きになると思うくらい、この地獄みたいな苦しさと天秤にかけてもまあちゃんと勝つくらい幸せだった。
あの時の私の幸せな気持ちは紛れもなく事実だった。
それだけは壊せなかった。
大事だから壊せないのか本物だから壊せないのかきっと死んでも分からない。
死んでしまった貴方もきっと分からない。