かっよくなりたい私は、ダサかった高校時代に嘘をつく。

「学生時代なにやってたの?」という質問をされたとき、私はいつも「バスケットボールをやってました。」と答える。そうするとだいたい「かっこいいねぇ~」と言ってもらえちょっと誇らしい気持ちになる。

実際にバスケをやっていたのは小中学校の5年弱くらいで、それが「学生時代にやっていたこと」の回答としてふさわしいかどうかは分からないが、とにかくそれくらいしか自信をもって答えられることが無い。

私は小さいころから、「かっこいい人」に強い憧れを抱いていた。スポーツができる人っていうのはかっこいいと思っていたし、厳しい練習を乗り越えられる根性や一生懸命に取り組むひたむきさもかっこいいと思っていた。

バスケの練習はかなりキツかったし、バスケが好きかと言われたら「好き」って答えなきゃいけない気がしてそう言ってたけど、正直嫌いだった。ただ、私はバスケをすることで「かっこいい人」になれている気がしていた。頑張っている自分が好きだったし、自己陶酔して悦に入ってた。

高校生になったとき、私はバスケをやめた。たいして好きでもなかったし、もう厳しい練習はしたくなかった。代わりに選んだのは軽音楽部だった。

「軽音楽部」というと、JPOPをやロックをする派手な高校生を想像する人も多いかもしれないが、私が入った軽音楽部は「スイングガールズ」みたいなジャズバンドだった。

別に映画が好きだったわけでも、音楽がやりたかったわけでもなく、特にやりたいことが何もなかったのだが、「帰宅部」にはなりたくなかった。帰宅部は明らかに「かっこいい人」の対極に位置していた。

もし今高校生に戻れるなら、「帰宅部」でも全く問題ないと思えるし、「英語部」とか「読書部」とか「クイズ研究会」みたいな「地味な文科系」に入るのかなと思う。なぜなら今はそういうのが好きって分かっているから。

でも当時は、自分がなにをやりたいかなんて考えたことも無くて、他人にどう思われるかばかりを気にしていた。ダサい奴だと思われたくなくて、客観的にみて「かっこいい」感じの部活を選ぼうと思っていた。そして行きついたのが、校内で一番ユルくて楽そうで、でもちょっとイケてそうな雰囲気のする軽音楽部だった。入部すれば「体育会系未満だけど地味な文科系以上」のカーストに入れると思った。

楽器は自由に選べた。一番安いという理由でトランペットを選んだ。そんな理由だから本当に愛着ゼロ。

幸運なことに、部活で出会った友人とはとても仲良くなれたし、彼女たちと遊ぶのはすごく楽しかった。本当に気の合う仲間と出会えた。それは間違いない。

でも、軽音楽部のメインイベントであるはずの文化祭やコンサートなどは大嫌いだった。

それは「軽音楽部でトランペットを吹いている自分」というのが、目指していた「かっこいい人」という理想像とかけ離れていたからだ。

厳しい練習に耐えられたことを誇らしく思っていた自分がそこにはいない。

一生懸命じゃないからひたむきさも達成感もない。

そこにいるのはただただ友人とのおしゃべりを楽しんで、だらだらトランペットを吹く自分だった。

音楽に対する偏見もあった。音楽は私にとってかっこいいものではなかった。のほほんとして自分に甘い上品なお嬢様育ちがやるようなものだから自分には似合わないと思った。スポーツをやっている同級生が、どうしてもかっこいいしすごいし偉いような気がした。厳しくてつらい練習を乗り越えて日々を頑張っている人の方がどうしようもなく魅力的だった。


文化祭での発表を両親は見に来たけど、本当は来ないでほしかった。ステージでトランペットを吹く行為なんて自分には全く似合わないし、滑稽だしダサいし恥ずかしすぎた。

中学時代のバスケ部の友人と会うのも苦痛だった。彼女たちの大半は高校でもバスケを続けていたから、「今何やってるの?」と聞かれ私だけ軽音楽部と言うのが嫌だった。劣っている気がした。怠惰な道を選んだ自分は弱い人間だと劣等感ばかり抱いた。

スイングガールズじゃん、スカパラもPE'Sもかっこいいじゃん、あのかわいい子も軽音じゃんって、正当化しようとしてみたけどダメだった。

そういうわけで、今でも高校時代の部活を思い出すと後悔しかない。だから人から聞かれたときは「帰宅部」だったと答えている。勉強が大変だったから帰宅部を選んだんだ、部活してたら勉強ついていけないと思ったからさぁ・・・!ってそれらしい理由並べて笑ってごまかしてる。


今でこそ、なんとなくだが、自分の好きなものに夢中になって取り組めていればそれで充分だと思うようになってきた。が、当時はどうしても「かっこいい人」でなければならなかった。バスケがやりたかったのではなく、かっこいい人って思われたかった。自分が何をやりたいかではなく、他者からどう思われるかがこの世の全てだった。

20代後半になった今もなお、他人からかっこいいと思われたい、良く思われたいって思いは強くて自意識過剰具合に嫌気がさすが、それでも少しずつ、自分がやりたいこと、やりたくないことには正直になれてきている気がする。

例えばランニングや読書や英語の勉強は何年も続けることが出来ているが、それはシンプルに、楽しくて夢中になれるからだと気づいた。マラソン選手や読書家や英語を喋れる人に対する「かっこいい」って気持ちはもちろんあるのだけれど、それは後付けで、楽しいという気持ちの方が先行していた。

好きなものってのがあると、それを他人からどう思われようが関係ないくらい夢中になれることが分かりはじめた。そういうのを見つけられただけでも、ちょっとは成長したのかなと思う。

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