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選択

雨が降っている。気がする。
降っていないかもしれない。まあそんなことはどうでも良い。六畳一間の部屋とはいえ外界の天候を確認することは容易な環境に身を置いているが、

外に出ると一歩目で小さな雨粒が顔に落ちた。
明確に雨が降っている。もちろんここで傘を取りに帰ることは赤子の手をひねるよりも容易だった。(この喩え怖すぎる)
だが今日の僕は小腹を満たすなどという小さなノルマを達成するために外へ出た訳では無い。
暗く狭い部屋の小さなテレビで観ただけで心を揺さぶられた映画が劇場で公開されるという。この機会を逃す気など毛頭ない。クソデカスクリーン、薄い壁に配慮する必要のないクソデカ音響を全身に浴びることが出来る、そんな大きな目標の前では雨粒のひとつやふたつは無いものとして扱われる。
買った時には邪魔だとしか感じなかったダウンジャケットのフードがここで効いてくる。傘を持っていたら人生という連載の中でほったらかしにされたまま終わっていた伏線が回収された瞬間だ。

普段、労働という暗い強制された目的のために歩いている駅までの道も、明るい目的の為に自らの意思で歩くと景色も音も匂いも全てが別物のようだった。

そして目的地である大型ショッピングモールに到着した。上映までかなり時間の余裕を持って出発した(逸る気持ちを抑えることが出来なかった)ので、まずはチケットを購入して時間を潰そうと考え、映画館を探し始めた。普段の僕ならばすぐに文明の利器をするところだが、今日は違った。
「匂い」で探し当ててやろう。

所謂猟犬モード突入である。

映画館といえば付近にあの甘ったるいキャラメルポップコーンの香りが漂っているはずだと信じて花粉症の症状がまだ出ていない鼻を利かせて歩き回った。しかし、同じ教育課程で産まれたのかと錯覚するようなアパレル店員達の声が呼応するだけで一向に獲物が見つからない。これは流石におかしい。気付くと24回払いで購入した文明の利器に縋っていた。

所謂猟犬モード解除である。

すると、目的地は2.5km先だという外気温に負けず劣らずの冷たい現実を突きつけられた。
普段の僕ならば「どうして事前に調べておかなかったのか」「お前はいつもそうだ」という黒い感情に支配され無抵抗のまま仄暗い水の底へ沈んでいくだけだが、「それ」は一切顔を出さず足を踏み出していた。
むしろ「知らない町を歩ける機会なんてそうない」
「小学生時分は片道2.5kmを毎日往復していたんだ、恐れるに足らん」と音信不通で生きているかも分からなかった奴らが顔を出してきた。元気なら普段からもう少し顔を見せて欲しいところだが。

おかげで

ひょうたん つる

とも出会うことができた。

雨ニモマケズ

そうして無事目的地へ到着すると、昂る気持ちそのままに普段は買わないポップコーンを購入。
映画館でポップコーン、ドがつくほどの定番だけれど、映画館では飲まず食わずの人生を送ってきた僕にとってはとても新鮮だった。こんなデカい?
くるり風に言えば

「ポップコーン買って食べたこんなデカかったっけな」

塩味にしては黄色過ぎる

肝心の映画については敢えて特に触れないでおきます。僕なんかが野暮な言葉を並べる必要も無いので。ただただ来て良かった。

自分を殺しながら流れに身を任せ惰性で日々を繰り返している。
きっとこれから先もそれは大きく変わることは無いけれどこういう日が増えたならあるいは


Enjoy Popcorn! Enjoy Movie! Enjoy Popcorn!


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