イタリア郷土料理のお話・プーリア州(Puglia) ~料理編~
前回の「イタリア郷土料理のお話・プーリア州(Puglia)~地理編~」に引き続き、「プーリア州・料理編」をまとめています。
見ていきましょう。
1)プーリア料理の特徴
たっぷりの陽射しを浴び、肥沃で、豊かな土地で育てられた野菜類を中心に、
特産のオリーブオイル、トマトをたっぷりと使った料理、
素材の味を楽しめるシンプルな料理が多いです。
これらの多彩な野菜類は、ヨーロッパ諸国にも輸出されるほど。
エジプト、アラブの影響もあり、豆類を使った料理も豊富です。
アドリア海で獲れる新鮮な魚介類、そして、肉類は、豚肉、仔羊、馬肉、
山羊等の料理がテーブルに並び、余すところなく食べようという事で、
腸詰も多く作られています。
広大な小麦畑から収穫される良質の硬質小麦(セモリナ粉)も有名です。
プーリアならではの手打ちパスタ、パンも作られています。
赤土の地で栽培されているワイン用のぶどうの木々、オリーブの木々から造られるワイン、オリーブオイルは、種類も、生産量も豊富で、州内のみならず、
イタリア国内で、また、世界各国へも輸出されています。
プーリア産ワインは、日本でも手にすることができます。
******************
☆土壌のお話
プーリアは、赤土の地としても有名です。
鉄分を多く含む赤土は、農地として適しています。
燦燦と降り注ぐ太陽を味方につけて、味が濃く、力強い野菜類のほか、
多くの農作物を育んでくれます。
プーリア滞在中に感じたのは、「とにかく、野菜が美味しい」という事。
オリーブの名産地・イトリアの谷(Valle d'Itria)の土壌も、この赤土です。
******************
2)それぞれの料理を見ていきましょう
① 野菜類
「前菜の盛り合わせ(Antipasto misto)」を注文すると、様々な野菜料理が、お皿いっぱいに盛り付けられて出てきます。
トマト、なす、ズッキーニ、パプリカ、じゃがいも、そして、アンティチョーク、等々。
本当に、野菜料理のバリエーションが豊富。
そして、これが、本当に美味しいのです。
プーリア州を訪れた時には、是非、食べて頂きたい盛り合わせです。
茄子、きのこのソテー、トマトとじゃがいものオーブン焼き、
そして、四角いパンのようなもの(写真・左)は、炒めたほうれん草、
玉ねぎ、トマト、アンチョビを、甘くないタルト生地で、挟んで焼いたもの。
「塩タルト」という感じでしょうか。
挟む具材は、その時によって変わるそうですが、よく作られ、おつまみとしても食べることがあるとか。
アンティチョーク(Carciofo)の栽培も、盛んです。
旬は、春から初夏にかけてで、フレッシュが味わえる時期は、前菜、パスタ、
フライ等、様々な料理に使われます。
保存が利くオイル漬けにしたものは、秋頃まで楽しむことができます。
「クッチーナ・ポーベラ(Cucina povera)」。
辞書で調べると「安い材料を使った料理のこと」と記載がありますが、
「始末の料理」「貧しい料理」というイメージで使われる言葉です。
各地それぞれの「クッチーナ・ポーベラ」がありますが、
プーリア州では、身近にある材料を使って創意工夫。
見た目は、とてもシンプルで、素朴ながらも、美味しくて。
「わぁ〜、美味しいな…」と、なんども頭が下がる、味わいのある料理でした。
茄子、パン粉、チーズ等で味と調えてから形を整えて、油で揚げたプーリア名物の茄子料理。
保存が利く乾燥そら豆を使ったプーリア伝統的な郷土料理のひとつ。
ほろ苦い緑の野菜・チコーリアを添えて、美味しいオリーブオイル(EV)をかけて頂きます。
豆好きには人気の一皿。
ボリュームもあり、お腹をいっぱいに満たす「素朴な料理」です。
② パスタ料理
硬質小麦(セモリナ粉)を原料としたショートパスタが、食べられています。
まずは、最古のパスタと呼ばれている、こちらのパスタ。
チチェッリ・エ・トゥリエ(Ciceri e trie)です。
幅1㎝、長さ5㎝の短冊状に切ったパスタを使います。
パスタの半分は茹でて、残りの半分は油で揚げて、くたくたになるまで煮込んだひよこ豆(エジプト豆:ceci)と和えたパスタ料理。
揚げパスタを加えることにより、味わいの厚みがでて、これが、驚くほどの美味しさでした。
今風にアレンジされていると思いますが、素朴でありながら、このような料理が、イタリア料理の起源のひとつ、何百年も前から作られ、代々伝えられてきたと思うと、その、とてつもない 〝イタリア料理の底力 ”をひしひしと感じて、
心が痺れてしまった私です。
オレッキオは、「耳たぶ」という意味。
この形のパスタは、日本でも食べられていますね。
溝のある2~3㎝長さのショートパスタ・カヴァテッリ。
手で形作ることもできますが、専用のパスタマシーンもあります。
この白い部分に、細長い棒状に伸ばしたパスタ生地を挟んで、くるり、くるりとハンドルを回すと、ころりん、ころりんと、左の方からカヴァテッリが出てくるのです。
この作業は、教室でも大人気で、皆さま、本当に楽しまれて使われていました。
カンパーニャ州(州都ナポリ)発の大きな筒状のパスタ・パッケリ(Paccheri)ですが、魚とトマトのソースと合わせて、良くメニューに載っていました。
しっかりとした食感のパスタなので、お肉のソースと合わすこともできます。
③ 肉料理
シンプルなグリル料理、地元の美味しいトマトで煮込んだ料理もあります。
お肉屋さんを覗かせてもらいました。
腸詰(ソーセージ:SaLciccia)が、沢山並んでいました。
肉の串刺し・スピエディーノ(Spiedino)も、ありましたよ。
ソーセージを、渦巻き状にして、串に刺し、グリルで焼いたもの。
このぐるぐる巻きは、南イタリアで、よく見かける肉の成形方法です。
オートラント郊外のアグリトゥーリズモで、食べた炭火焼。
庭先で、ジュージューと焼き上げた豚肉は、本当に、美味しかったです。
トマト料理の定番・肉団子のトマト煮込みも、よく作られています。
④ 魚料理
漁業も盛んです。
アドリア海から新鮮な魚介類が揚がるので、素材の美味しさを味わう為に、
魚を丸ごと煮込んだ料理、フライなど、シンプル、かつ、豪快な料理などがあります。
近年は、低温調理や燻製料理なども作られています。
アクア・パッツァ(Acqua Pazza)と似ていますが、あさり等の貝類を入れず、魚とトマト、調味料だけで作るのが、「マリナーラ(Marinara)」。
海辺近くのレストランでは、水ではなく、海水を使うこともあります。
その場合は「アックア・ディ・マーレ (Acqua di mare)」と呼ばれます。
⑤ パン類
特記すべき、プーリア州のパン。
良質の製パン用の硬質小麦粉(セモリナ粉)を使い、大きいサイズで焼かれているパン、フォカッチャ類は、軟質小麦粉で作る日本のパンとは、食感、味わい、風味が違います。
これが、また美味しいのです。
イタリア全州に足を運びましたが、プーリア州のパンの美味しさは、記憶に残っています。
特産のトマトをのせたフォカッチャは、定番中の定番。
よく、出てきました。
炒めた玉ねぎを、トッピングすることもあります。
隣接するバジリカータ州(Basilicata)との州境近くにあるアルタムーラ村(Altamura)。
古くから「パンの村」として名が知られ、イタリアで唯一パンでD.O.P認定(原産地名称保護制度)された「アルタムーラパン(Pane di Altamura)」の発祥地です。
大型のアルタムーラパンは、半円ドーム型と、ぼこっと生地半分が膨れ上がった山型(ハート形?)と、ふたつの形があります。
残念ながら、私は、アルタムーラを訪れることが出来なかったのですが、
バジリカータ州マテーラ(Matera)で、形が似ているパンを見ることが出来ました。
マテーラパンと呼ばれていましたが、大きさは、両手で抱えるほど。
アルタムーラパンも、こんな感じかなと想像しています。
チーズやソーセージなどを入れたデニッシュパンもありました。
そして、スナック菓子・タラッリ(Taralli)も忘れてはいけません。
地域によって、材料&作り方が違います。
スパイシーなナポリ風タラッリ(Taralli Napoletani)も美味しいですが、
シンプルなプーリア風タラッリも、食べだすと手が止まらなくなります。
⑥ 菓子類
カスタードクリームを使った、タルト、パイ菓子が多いという印象です。
よく見かけたパスティッチョットは、タルト生地の中に、カスタードクリームを入れて焼き上げたものです。
「顔(muso)を汚し(sporcare)ながら食べる」という名の
「スポルカムーソ」は、カスタードクリームが、たっぷり入ったパイ菓子。
ミルフィーユケーキ(Millefoglie)の原型のようなイメージでしょうか。
⑦ チーズ
日本でも知られているブッラータ(Burrata)。
モッツァレッラチーズの中に、生クリームと柔らかいフレッシュチーズが入っていて、切ると、それらが、とろりと溢れ出てくるフレッシュチーズです。
プーリア州アンドリア産は、I.G.P認定(地理的表示保護)されています。
やはり、現地で食べたブッラータは格別でした。
州内で生産され、原産地名称保護(DOP)されている主なチーズは、下記の通りです。
チーズ好きの方は、是非、チェックして味わって頂きたいです。
⑧ ワイン、オリーブオイル、地ビール
ワイン、オリーブオイルは、イタリア国内のみならず海外への輸出もされ、
良質で美味しいプーリア特産品です。
前述した、赤土の地・イトリアの谷(Valle d'Itria)の恩恵を受けて育つオリーブの木々は、独特の風味があり、愛されています。
オリーブ畑以外でも、樹齢100年超えのオリーブの木を見ることができ、
プーリアの地に根付くオリーブの歴史を感じずにはいられません。
日本にも入ってきているプーリア産のワイン、オリーブオイル。
是非、試して頂きたいです。
ワイン王国のイタリアですが、近年、地ビールも人気のようです。
プーリア州内でも、見かけました。
現在は、量産できないので、まだ値段も高く、なかなか広域的に流通・販売する事ができず、もっぱら地元での消費されているそうです。
イタリアでも、若者のワイン離れの話を聞くことがありますが、
もしかしたら、アルコール度数の低いビール等が、好まれてきているのかもですね。
******************
いかがでしたか?
プーリア州の地理編、そして、料理編、2回に分けてご紹介しました。
記事を書き始めると、あれもこれもと、内容が膨れ上がってしまい、これでも、かなり精査したつもりです。
それだけ、内容の濃い、豊かな食文化が残っているのだと、執筆しながら思いました。
知れば知るほど、魅了されていくイタリアです。
今後も、イタリアに関する情報を、様々な形で、お伝えしていきますので、
どうぞよろしくお願いします。
その他の、プーリア州滞在記は、下記から、ご覧頂けます。
******************
マガジン「オフィスアルベロ・レシピ集~neo~」からも、イタリア料理を楽しんで頂けます。
是非、ご覧ください。
******************