読後感想:ボフミル・フラバル『わたしは英国王に給仕した』(河出文庫)

消滅しそうな読書会のために、数週間前から読んでいた本。作者の名前もこの本を手に取るまでは知らなかった。タイトルからして、英国王室の周りで繰り広げられる話か何かかなと思っていたが、全然違った。チェコを舞台にした給仕人の話。

正直なところ、前半部分はあんまり面白いと思えなかった。主人公の男がいろいろホテルを渡り歩いて、成功していくみたいな話で、どこに面白さを感じればいいのか分からなかった。大戦がはじまり、不穏な空気は流れつつ、妻と子は死んでしまうが、結局主人公はうまいことやってホテルのオーナーになる。この調子で話が進んで終わったらどうしよう、と思いながら読んでいた。もちろんそんなことはなかったのだが、たぶん自分には、作者への信頼が足りていない(これは全然関係ない個人的な話なのだけれど、『プラダを着た悪魔』を観たときの状況に少し似ている。あの映画も、「主人公がトントン拍子で成功していくだけの話!?」と思って観ていた。それだけに、主人公が携帯を噴水に投げ捨てた時のカタルシスは強かった)。

主人公が刑務所で、自分はほかの億万長者のようにはなることができないと感じ始め、そのあと森林で働き始めるようになってからのシーンは面白く読むことができた。今までの人生を振り返り、たどっていく姿、教養を備えていく女性、道と過去の比喩、森林や山村の描写、等々は美しさを感じるに十二分だった。主人公のダブレットのように描かれていた元給仕長の姿も興味深い。終わりよければすべてよし、ということでよい読後感だった。

読んでいる最中、前半部分はつまらなかったのだけれど、最後まで読み通してみてから再読すればまた違ったように感じるのだろう。

いい小説だった。

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