超短スクロールバー freaking me out
ファストフード店、僕はバーガーとフレンチフライズが載ったトレイをテーブルに置いて、スマホを取り出しtwitterアプリを起動した。
「おっ、ジョニー短冊さんのスラムジィジの更新じゃん。見てみよ」
スラムジィジとは、強い老人を書くことで有名なジョニー短冊氏の著作。かつての九龍城砦めいた巨大スラム街『ホー・サイレ』で道具屋を営む爺さんがギャングやカンフーアサシンと斡旋する物語だ。ハードボイルドの世界観、タフで狡猾なジィジ、ジィジの店を訪れる個性豊かな客人たちが僕を夢中させた。
Twitterのリンクをタップし、noteアプリ自動的にが起動した。テキスト表示されていく。前回スラムに訪れたイキったイギリス人の記者はどんな目に遭うか、今から楽しみだ……
そして僕は見た。
モニター右端、1mmも満たない、もはや点としか言えない極小のスクロールバーを。その瞬間、鳥肌が立った。
「ひぅ!」奇声をあげ、僕の胸が激しく上下して過呼吸になりかけつつもスマホのもどるボタンをヒステリックに連打した。
「公衆の場で奇行はやめなさい。私まで変な目で見られてしまうだろ」
テーブルの向こう、オーランドブルーム似のエルフの王子が自分のトレイをもって着席した。
「一応聞いておくが、何があった?」
「スク、スクククク……」
顎が震えながら僕が答えた。
「スク?」
「スクロールバー……短いんだ、よっ!」
超短スクロールバー、それは文章がくそ長いこと。
超短スクロールバー、それは文章を読むに時間が掛かること。
超短スクロールバー、それは通勤や食事中手軽に読めないこと。
超短スクロールバー、それは「文章長っ、こわっ、帰ってから読も」のこと。
超短スクロールバー、それは「長くなりそうすね。じゃあ読むのあとにしよ」と思ったが最後忘れてしまうこと。
結論:超短スクロールバーは超こわい。ブラウザバックしてしまう。
「こんなものでパニックに陥るか、超短人生の人類の思考の方が理解に苦しむな」
「うるさいぞエルフの王子、これはとてもセンシティブな問題だ。非人間のあんたに批判される筋合いはない」
僕はやけくそになってスキットルからバーボンをコーラに注いで即席にウィスキーコークを作った。店は基本飲み物の持ち込み禁止だが、店員も面倒事を避けたい人間なのでこういう時は目をつぶってくれる。
「上位種族の私に口出し無用ってわけか」流石は王子だ。いかなる場合でも嫌味を忘れない。「でもいまでもスクロールバーが超短になる文章を書いている人がそれを聞いたらどう思うかな?これを見て不快を感じたそこの君、今すぐフォロー解除するか、コメントを残して彼に思い知らせることがおすすめですよ」
エルフの王子はカメラ目線に言った。
「お、おい、フォロワーを挑発するな……やめろって!」
僕は既に酔っている。
スラムジィジは虚構の小説です。存在していません。