【剣闘日記】ふたりがグラディエーター!
午後、高温、高湿。俺の忍耐力は限界に近づきつつある。大した仕事もしていないのに汗が湧く。湧いた汗でシャツがびしょぬれ。びしょぬれのシャツが不愉快でストレスが上がる一方。こんな時は冷房が効いた室内に籠ることに限る、アイカツ!が遊べたらなおさらよし。
だから俺は量販スーポーに逃げ込んだ。冷房はそこそこ利いていて快適。そしてアイカツ!を含めたデータカードダスが置いたコーナーもある。
ここに来た以上、やらない理由もないので、俺はアイカツフレンズ筐体の前に座った。周辺にキッズが走り回っている。ふん、金もなくデータカードダスのボタンを叩いて渇きを癒す小鬼の類だ。気にする必要はない。俺はクールに三枚のコインを台に入れて、ゲーム開始したと同時に、小学生ぐらいの少年が俺の左に立って、モニターを見つめていた。なんだ?大の男がアイカツをやるのはそんなに珍しいか?羞恥心などとっくにドブに捨てたぜ。見たければ見ていろ……突如、少年が話しかけてきた。
「ねえ、娘の代わりにやってんの?」
……俺も、子供がいると思われるほど年を取ったもんな。俺は平静に、横目で彼を見た。
「おじさんは娘がいるに見える?」
少年は畏れず俺の目を見て、答えた。
「いや、わかんないよそんなの」
「だよねー」
なんだこの会話、なんだったんだ俺の返事。ダサすぎる。
「ねえ、一緒に遊んでいい?」
「えっ」
少年の口から意外なセリフを聞いて俺は驚いた。こいつ、成年男性であるこの俺を誘惑(ナンパ)しやがった!
「あ、ああ。勿論いいよ。でももう、ひとりでプレイを押しちゃったんだ。これが終わったらね」
「うん、いいよ!」
俺はクールを装って、ゲームを進めた。やべえ超緊張している。だってこれからは初めてふたりでプレイモードやるんだもの。まったく未知の領域だ。これはよく覚えて、文章にして記録せねば!よぉし、ちゃっちゃっと終わらせるぞ!
今週オーディション大会の練習を兼ねて、ステージは絆~シンクロハーモニー~を選んだ。先週そろったばかりのブランプリュームコーデを刷り込む。
「すげえ!いいカード持ってんじゃん!」と少年がモニターに食い込むように言った。ふふは、すげえだろ。あれ、そいえばバインダーを持っていないようだが。
「きみ、カードは持ってるか?」
「今は家の中に置いたよ。今日はムシキングやりに来ただけと思った」
「そうか」
「一番すきなのは初音ミクのカードだよ!一番きれいだ!」
「そうか」
そいえば初音ミクとのコラボあったな。あの時の俺はまたGLADIATORのGも書けない青二才だった。
アーマーを決め、次はフレンズを組むキャラを選ぶパートだ。誰にしようか。
「ユリカ!」少年は画面にいるユリカを見て興奮!「ユリカ選んでよ!」
「ほう、ユリカ推しか?」
「ユリカは最強だぞ!友達から聞いたんだけど、一噛みで神崎美月も子分にしたんだって!」
ああ、アレか。別に美月がユリカの子分になったわけじゃないけど。
「ホームビデオ回か、あれは神回だったね」
「えっ、アニメ観てんの?」
「えっ、じゃあきみは観てないの?」
「恥ずかしいから観れないよ」
そんな下らん自尊心、捨ててしまえ。
同じくブランプリュームコーデを着たユリカを選んで、スタートだ。
「うお……すげえ……」
俺の剣闘技巧を見て驚嘆する少年。ふふっ、こうみえてまた中の下ぐらいだぜ。
何となくフルコンボできた。途中でちょっと危なかった場面もあるが、何とか乗り越えた。得点は20万あと少し、妥当だな。
「おじさん強えな!」
よせやい。マスクの下でおじさんの顔がにやけて超キモくなってんぞ。
「じゃあふたりでやろか。一応聞くけどきみ、コイン持ってる?」
「ないよ。ムシキングで全部使っちゃった」
「そう。んじゃ金出すわ」
俺はコインを滑り込み、剣闘初めて以来初めてふたりであそぶモードを選んだ。
一方、カードダス時空では。
「んな、バカな……」ステージを終わったばかりのDOOMは手に持っているブレインサンダーをこぼした。「ずっとぼっちでやってきた外の奴が、ふたりであそぶモードだとッ!?あいつがマルチプレイに手を出すのは数年後になっているはず……」
「運命は自らぶつかって来るものよ。さぁ、とっとと行きなさい」
ユリカがDOOM背中をスパーンと叩き、キアイを入れてやった。
「いってぇ!けどおもしれえ……やってやろうじゃねえか!」
-現実-
プレイヤー二人がいるから、当然二人分の料金が要る。六枚のコインをマシンに入れて、左側のスロットにアイカツパスを置く。
『右のお友達のICカード置いてね!』
少年はカード持ってきてないのでパス。
『アイカツカードを味方にしてね!』
今回のカード配り担当はあかり同志か。まるで俺のアイカツ一大進歩を祝ってくれているみたいだ。ってダブったカードか。
『続いて、右のお友達のカードだよ!』
またダブった。4弾がサービス開始以来PRカードが一枚も当たらねえ。もういい。仕事してくれないのならさっさと失せなあかり同志。俺は排出されたカードを少年に渡した。
「全部持ってるカードだわ。あげるよ」
「わーい、ありがとう」
「で、どの曲がいいんだ?」
「そうだね……」
少年はBelive itを選んだ。いいチョイスだ。難易度はノーマルしかないのか?初回からだろうか?それとも一人がICカード使ってないので初心者認定されたか。
「協力と対戦、それにする」
「協力で!」
「OK」
キャラ選択。もちろん俺はわがチャンピオンDOOMで行く。少年はココを選んだ。
「一番キレイな奴を選ぶ!」
と少年は言った。ははん、さては白髪の娘が趣味か?
「キャー!一番キレイだって!うれしい!照れちゃいますぅ!」
カードダス時空では、ココは褒められてウキウキしていた。
「嬉しそうになりやがって~」
「それはDOOMさんも、さっきからニヤニヤが止まらなくて気持ちわるいよ~」
「くっきっき、しめんぞコラァ~」
セルフプロデュース画面に入った。まずは俺から。今日はバインダーにラブミーティアのドレスを入れてない。これぐらいでいいか。
俺の使用カード
一応ミライのカードを使った。次は少年の番だ。彼にバインダーを渡す。
「好きなもんを使っていいよ」
「うん、じゃあ……」
少年の使用カード
「ウヘ、上半身はCOOLで他はPOP、これじゃまともなスペシャルアピールも出せねえじゃねえか。ゲームの仕組みわかってんか?」
「そんなことないよ。彼が一番キレイだと思った私のために組んだコーデだよ。だから私にとっても、これが一番です!」
ココは誇らしげに腰に拳を当て、着ているドレスをアピールした。
「ポジティブだね。にあ、ノーマルだから不合格は無いと思うしいか」
ステージが始まった。左にいるプレイヤーは←のボタンを押し、↑のボタンを二人同時で押すという仕組みか。ノーマル難易度はヌルゲーなので負ける気がしない。ほら、レベル6のスペシャルアピールだけでケージが一気に半分まで上がった。
「おれ、ボタン押すのが早いけど、スペシャルアピールは苦手だよねー」
と少年は呟いた。悪いけど今返事はできない。剣闘は厳粛なんだ。あときみは確かにボタン押すのが早い、早ぎてさっきからGOOD判定しか出ないじゃないか、可愛い奴め。
『右の友達のスペシャルアピールだよ!』
「よし来た!破ァ!!!」
タイミングを合わせて、少年は筐体が揺れるほどの勢いでボタンを叩いた!アピール成功!
「できた!一つだけのやつなら楽勝だけどな」
やったな。しかしまたステージが終わってない、気を引き締めていくぞ!
その時である。
少年の右から、幼稚園ぐらいの小鬼が上半身を乗り出して台にしがみつき、しかも執拗にボタンを触ろうとしている!
「ちょっ、邪魔ァ!」
少年は小鬼の手払いながらゲーム継続!恐らくは彼の弟か妹だろう。戦闘中の剣闘士にちょっかい出すとはいい度胸だ。別に何をするわけでもないけど!
サンライト・デュエット、そしてフィーバータイムを決め、ステージ終了。
「わー終わった。また続く?」
「いや、これでおしまいよ。おじさんは仕事に行かなきゃ」
「そっか!じゃあバイバイ!また一緒にやろうな!」
「ああ、また会えたらな」
俺が手を伸ばした手をしばらく眺めて、握手を求められていると気付いた少年は応じた。
カードを片付け、俺はスーパーを出た。少しだけの間だが、そこに確かな友情があった。
『ふたりであそぶでアイカツ!しよう!』のトロフィーが解除されました。
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