ワークハード、ライトハード、リヴハード2 #ppslgr
「おはようレイヴン。昨晩はよく眠れた?」
「いやまったく。寝てもすぐ起きてしまう、浅かった。そっちは?」
「俺は泥のように眠れて快適に朝を迎えたぜ」
「そいつは羨ましいぜ」
朝7時。俺とレイヴンは約束通りジムで落ち合った。体育タイムズフィットネス、通称タイタン、俺の行きつけのジムだ。ビルの地下一階にある。信頼ある大手メーカーLIFE FITNESSの器具を大量導入している。エレベーターがないため器具を意味もなく長時間占拠するお年寄りがあまり立ち入らない。ここにくるのは確かなビジョンをもって己を追い込む真の男女だけ。筋肉のテンプルだ。
「それにしてもそのスタイル、ぶれないというかなんというか……そんな格好で大丈夫か?」
俺はレイヴンのつま先から頭頂まで目を巡らせた。黒いスニーカー、黒いジャージ。肩にかけているタオルまで真っ黒。adidasなら違う色の3本線や三つ葉のLOGOを入れて装飾をつけるところだがレイヴンは妥協は一切なし。露出している顔と両手以外全部黒。
「ん?服がどうかしたか?動きやすいがいいってホイズゥが言ったじゃ」
「確かにジャージは高性能の運動着だけど、ジャージを着て筋トレするやつは殆どいない。暑いんで」
「おれ冷却機能付きなんで」
「そういえばそうだった」
レイヴン七不思議の一つ、彼は気?とかを用いて服と身体の間の空気を冷やすことで夏場でもトレードマークの黒いコートを着ても平気でいられる。汗っかきの俺が羨ましくて仕方ない。ちなみに俺は肉体を程よくアピールする伸縮性と透気性に優れたあるスポーツシャツと短パンを着ている。
「でもさ、せっかく鍛えた身体を誰かに見せびらかしたくなるんじゃない?ジャージだとそれができなくなる」
「いいかホイズゥ、いい男はな、安易に肌を見せないものだぜ」
「えっ俺がはしたないってこと?ってか価値観古っ!もういつまで突っ立ってないで始めるぞ」
「ウイー」
ウォーミングアップを手短に済ませて、ようやくトレーニングの始まりだ。最初はあれで行くとするか 。
「レイヴン、これを見てくれ」
「これがROW。ボートを漕ぐ動作で僧帽筋から背広筋にかけて背中の全体的に鍛えられるぞ。俺はとくにこれが気に入ってね、まずやってみせる」
左右両端のバーに20kgのプレートを2枚ずつセット。総負担重量80㎏。腕が床と平行するようにシートを調整し、胸にあたるクッションにタオルを被せる。
「両手でレバーをしっかり握って、フーンッ!レバーを引き切るッ!フーンッ!そして、スゥー、ゆっくり戻す。これを繰り返して背筋を追い込むんだ」
「要は引けばいいだろ?」
「引くときは息を吐いて、戻すときに息を吸うとやりやすいぞ。まずは俺が1セットやる。レイヴン、左右に15kgのプレート一枚ずつ追加してくれ」
「プレートってこのディスク状の重りことか?わかった……つけたぜ」
「ありがと。じゃあ飛ばすぜ!フッス、フッス、フッス……」
総重量110kg。レイヴンが見ているのでいつもより張り切っている。
「フーーンンッ!ふぅ。これで1セット15レップス終了。筋力強化が目的なら3セットやっといた方がいいと言われるぜ」
「なるほど。しかし110kgか。中々やるじゃないかホイズゥ」
褒められた嬉しさを顔に出さず、俺は器具から降りた。
「次はレイヴンの番だぜ。重量はどれぐらがいいんだ?」
「そのままでやってみるよ」
「マジ?あっ因みに筋トレはあくまで肉体本来の力を鍛える目的だから気とかオーラとかのミスティックパワーによるバフは使わないでほしい」
「承知している。そんなことやったらトレーニングにならないだろ?よっこらしょ」
レイヴンはシートに腰を落としてレバーを握った。
「ンンッ」
「どうだ?重いか?」
「ンンッ」
レイヴンの動きは至って流暢で、あっという間に15レップスが終わった。
「ふぅ。いけたな」
「初心者にしてなかなかやるな。筋肉が疲弊してないか?」
「いや全然。全然またやれるぜ」
「ふーん。流石じゃん?」
初心者に自分トレーニングメニューを攻略されてちょっと複雑になりつつ、俺は次の項目に進むことにした。
「DECLINE PRESS。胸筋を鍛える器具の中で比較的に扱いやすいやつだ。レイヴンは左に20と15のプレート1枚ずつお願い」
「りょー」
「プレートをかけると、次はレバーが乳首と同じ高さになるようシートを調整するんだ」
「乳首?」
「背もたれにタオルを敷く。頭皮はとくに汗かきやすいから、背もたれが汗でべちゃくちゃにならないようための気づかいさ」
「衛生的に大事だな」
「そう。誰だって他人の汗でぬれぬれの器具に座りたくないでしょう?変態でもない限りね。タオルで収拾できないほどの汗をかいた場合はジム側が用意した拭き布と消毒液でクリーンにするように」
「そういえばホイズゥはタオル敷きのネタで小説一本書いたよな」
「さて、準備が整えた。背もたれに背中を密着させ、体幹が曲げないように座って、あとは押すだけ。フッッ!押し切るッ!そしてゆっくり戻すッ!だ大体こんな感じだ」
さっきと同じ1セットをやり切って、席をレイヴンに譲る。
「おれも重さこのままやってみるぜ。ンンッ」
またさっきと同じ、レイヴンが俺が扱った重量を難なくこなした。
「ふぅ。なんかいいねこれ。人体のことを考えて最適化って感じ。だんだん楽しくなってきたぜ」
そんでもって余裕たっぷりの素振りを見せてくれる。まずいぞ……このままでは俺の「レイヴンにジムに誘って俺の筋肉を見せつけて感服させて自信回復作戦」が挫けてしまう……!
(続く)
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