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【THE GREEN KNIGHT】よくぞ参った。では首を刎ねよう【感想】

読者よ、ひとつゲームしよう。貴様らのなかで最も勇猛の者が吾にネタバレを言え。そして翌年、その者がスポイル礼拝堂に訪れて、吾の返しのネタバレ受ける。さぁ、このスポイルナイトに挑む者がおらぬか。
つまり運命のネタバレから逃れられないということです。

あらすじ

クリスマスの夜、アーサー王の城では過去の一年を締めくくる宴会が開かれていた。ラウンドテーブルに囲んで、酒と肴を楽しみながら歓談する王と騎士たち。そして突如にドアが開かれて、馬に乗った闖入者が現れた。

樹皮が皮膚、気根が髭、鎧をまとい、恐ろしい大斧を携えているその者はまさしくに緑の騎士であった。緑の騎士はこう告げた:

崇高なる騎士王よ。吾はここで、貴様にクリスマス・ゲームを申し立てる。この部屋で最も勇猛な戦士が吾と戦え。もし吾を負かせれば、吾の首を刎ねろ。その者は来年のクリスマス、吾の斧を北にある緑の礼拝堂に来られよう。そこで吾にしたように、吾がその者の首に一刀を返さん。さて、我がゲームに挑む者がおらぬか。

騎士たちが剣の柄を抑えて、誰一人声を上げる者がいなかった。グリーンナイトの言葉があまりにもナンセンスがだからだ。クリーンナイトは人間ならざる怪物、たとえ歴戦の騎士でもさしで勝てるかとうか。もし勝ったとしても、グリーンナイトの言葉が本当なら、来年のクリスマスに自分が北へ旅し、斧を返上した上に首を刎ねられることになる。百害あって一利なしだ。

膠着状態が続くなか、アーサー王の甥、若きガウェインが名乗り上げた。アーサー王みずからエクスカリバーを渡されて、やる気が爆上げするガウェイン。しかしここでグリーンナイト斧を投げ捨て、ガウェインに跪き、斬りやすいように首を差し出した。

その予想外の挙動に動揺するガウェイン。しかし自分は王の剣を握っている。王の期待を一身に受けている!やぶれかぶれに剣を振りおろすガウェイン。グリーンナイトの首が字面に転がった。

パチパチパチパチ……ガウェインの快挙を祝福して、アーサー王と騎士たちが盛大に拍手!浮かれるガウェイン!その背後に立ち上がるグリーンナイトの首なし死体!その超自然の光景を目にした広間の者たちが息を呑み、広間が再び静まり返った。

首なし死体が己の首を拾い、馬に跨った。

忘れるなかれ!来年のクリスマス、緑の礼拝堂で返しの一刀を受けよう!ワーッハハハハ!と高い笑いしながら、グリーンナイトが城を去った。

これが一年前の出来事だ。そして今、ゲームの決着をつけるために、若きガウェインは北への旅に出る。

若きガウェイン

若きガウェインがアーサー王の甥でありながら、戦場の経験がなく、自分が騎士を名乗るに相応しくないとコンプレックスを抱えている彼は酒と女に溺れていた。

すぐに一年が経ち、クリスマスがやってくる。約束を果たすときが来た。グリーンナイトに恐れ、緑の礼拝堂の存在に疑問をい抱きつつ、母親とアーサー王に騎士道の在処とか説かれて、後押されていやいや旅に出るガウェイン。出発2日目で森で盗賊に囲まれ、ボンボン騎士のガウェインがなす術なく捕縛され馬とグリーンナイトの斧を奪われてしまう!クエストが早々も破綻!縛られたまま放置されるガウェイン!これがまた第一の苦難に過ぎない。果たして若きガウェインが無事に斧を緑の礼拝堂に届き、返しの一刀を受けるのか?頑張れ若きガウェイン!これから更に酷い目に会うけど死ぬまで立ち止まるな!騎士らしくグリーンナイトの斧で死ね!

これは騎士が斧を掲げて敵を討つ映画ではない。戦闘シーンもほとんどない。ガウェインは果敢で叡智な騎士より、カンフォートゾーンから追い出されて、死の運命に怯えながらも前に進まないといけない、哀れな若者として描かれている。荒涼なイングランド大地を単騎で歩む孤独感。簡単にも盗賊にやられてしまう情けなさ。飢えを凌ぐために見知らぬキノコを食べて吐いてしまう悲壮感。生へ執着心と騎士としての矜持。けっして真の男とは呼べないが、彼は生きていて、必死だ。

主演のデーヴ・パテールは目が大きくてタレ目に相まって、怯える子犬感が出ていい感じだった。

エピック的ストーリーに対する一抹の不安


A24プロデュース!《ロード・オブ・ザ・リングス》⦅アバター》SFXチームによる革命的映像!J・R・R・トールキンが翻訳した『ガウェイン卿とグリーンナイト』に基づく脚本!

と映画の発売会社がこう宣伝しているが、J・R・R・トールキンの名前が出るとちょっと不安を覚えてしまう。つまりまた3時間みっちりやるってこと?でも映画全編は2時間だと聞いて安心した。J・R・R・トールキン原作だからってみっちり3時間とは限らないよな。ピーター・ジャクソン監督に毒されすぎたぜ。

Mr.タスク、ロブスター、ヘレディタリー、ミットサマー。人の心に爪痕を残す数々の映画を送り届けた悪名高いA24の映画を映画館で観るのはこれが初めて。このシーンいる?こいつがここに出る意味がなくね?ってところはなくもないが、総合的に面白い映画だった。日本は某ソシャゲのおかげでアーサー王伝説が人気なので、情けない姿を晒すガウェイン卿は二次創作にいい刺激を与えるんじゃないか。日本での公開はまた未定らしいけど。A24と日本の映画配給できっと何とかしてくれると信じるぜ。

トレーラーに出るかわいいキツネちゃんと山よりでかい巨人は何を意味するか、何の役割を持つか、ガウェインの旅にどんな影響を及ぼすのか、あえて言わない。実際に映画館に足を運び、観て欲しいからだ。では私はスポイル礼拝堂に向けて旅に出る。生きて帰りたいな!

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