やはり旅は一人に限る【Last day】
バゲットで作ったフレンチトーストにメイプルシロップをかけて、ナイフで半分に切って、口に入れる。美味い。このホテルの朝食で出すフレンチトーストは絶品だ。バゲット故に卵がよく染み込んで、カスタードみたいな食感をもたらした。このフレンチトーストを食べれるのもこれで最後か……と思ったおれは新しいフレンチトーストを二枚取ってきた。
[After all traveling alone is the best:last day]
チェックアウトを済ませ、おれと母さんはスーツケースを引きながら駅へ向かっている。
「横浜はなかなか良かったわ。アクズメくんはどう思う?」
「まあな。前に来たことあるから新鮮感がないつーか」クールぶっていたがおれはそれなりに楽しめた。そして酒が飲み足りていない。当然言えないが。
「そう……でこれから直接空港に行くの?」
「いや、東京駅に行く。なんかすげえミュージアムあるぜ」
◆🚃◆
東京駅、丸の内。ここにはKITTEという名の施設があり、目当てのミュージアムがその中にある。インターメディアテク。去年来たときは休館日で、とても残念な結果(昼から営業しているバーで時間を潰していた)になったため、今回はリベンジということ。地下一階のコインロッカーにスーツケースを預け、また登る。二階が入り口だ。中に入ると、大小様々な動物骨格標本が並んでいる。まるで異空間だ。壁一枚の向こうは人が賑わう東京駅とは思えない、静謐な雰囲気を漂わせる。おれは圧倒された。
「ここってめちゃすごくね?」
大学生らしき男子が驚嘆しながら、スケッチブックに鉛筆を走らせている。おれは手を腰の後ろに組んで、展示品に集中している振りして彼のスケッチブックを覗いた、魚や鹿の骨格の素描が書かれている。なかなかうまいじゃないか。
インターメディアテク、日本郵政と東京大学総合研究博物館が提携したミュージアムである。鳥類、陸生動物から水生生物、数多くの標本を集まっている。他にもいろいろあるしめちゃすごくね?入場は無料、館内での撮影は禁止されている。東京駅に立ち寄った際は一度訪れ見てはいかがかな?
展示内容はかなり豊富で、見まわっているうちに昼頃になった。
「今日は母さんの誕生日だね。何が食べたい?奢るよ」
「本当?うーんどうしようかな?」
日本での最後の昼めしはKITTEの中にあるぞば屋にした。母さんはてんぷらかけそばで、おれはざるそばとサーモン丼だった。
「ふぅ、ありがとうねアクズメくん」
結局えび天はおれの腹に入った。しかしこれで四千円か。さすがは丸の内、レストランもスゴイタカイだぜ。最後は荷物取りついでにスーパーで会社用のお土産を買い(えびせんべいを買った。やつらはこれぐらいで十分だ)、成田へ出発だ。
◆🚈◆
おれは今、NEXの券売機で苦戦している。
『Suicaを入れてください。最大二枚同時に入られます』
OK、じゃもう一枚入れるぜ……シェット!また吐き出された!言ってることとやってること全く違うじゃんこのクソマシーン!
「どうした?大丈夫なの?」「大丈夫だ……多分」後ろを見ると心配そうな母さんとその後ろに、不愉快そうにおれを睨んでいる男が目に入った。やべえな。プレッシャーで汗が出た。しゃあない、一枚ずつ買うことにしよう。おれはSuicaを一枚だけを入れて、手順を進めた。
『特急券はお持ちですか?もしお持ちでない場合は……』
特急券?なにそれ?成田から来た時はそんなもんなかったぞ?まあいい、どうにでもなあれ!
「ご購入ありがとうございました。切符を発行いたします」
そしてSuicaが戻され、二枚に切符が吐き出された。なんで切符が二枚もいるのか?これが分からない。何度も日本に来ていたおれもが困惑するなら、初めての観光客はもう大混乱のではないか?もっと観光客にやさしい環境を作ろうぜ?なあ、JR東日本=サンよ?
「なんでチケットは二枚なの?」母が尋ねた。
「わかんねえ……」おれは正直に答えながら切符を彼女に渡し、手順を踏んでもう一人分の切符を買った。
◆🚈◆
成田空港第1ターミナルに着いた。
「また時間があるし。分けて行動しよう。時間になったらLINEで連絡しよう」「OK」
おれは五階のLAWSONでパンと酒を購入し、展望デッキの座席に座った。
六日間、長いような、短いような。魔法の時間が終わり、シンデレラは明日から普通の生活に戻る。ここでは何か感情的な話をする場合だろうが、そんなものおれに期待しても無駄だ。
じゃあ、またな。
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