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炊飯天尊比羅夫2
「DUMB BRO CALL! DUMB BRO CALL!DUMBでも大事なおれのBRO!」
川を降りるイカダの上で炒飯神太郎が即興のリリックを刻んでいました。上機嫌の様子です。
「DUMB BRO CALL! 無茶するBRO!腕の中おれのBROがGETTING COLD!仇を討つぞ今夜のおれは途轍もなくBRUTAL!Yeahッ」
どうやらギャングの紛争で亡くなったBROを弔う内容だそうです。チャーハンで人の心を操って己の兵隊にして戦わせる炒飯神太郎の口から出ると説得力があります。彼は炒飯軍団をBROとしてみているかどうかは疑わしいですが。
「ふぅー」
ラップを終えた炒飯神太郎はひと息つき、イカダの上で横になって空を見あげました。青空に漂う白い高積雲(細かい団塊状になっている雲の一種です)がまるでパラパラに仕上げたチャーハンの様でした。
(この国での役目を果たせた。思いのほか長い道のりだった……)
炒飯神太郎これまできことを振り返りました。
(炊飯仙人、奴はまごうことなき強敵、私が遭遇してきた中で最強だった。超光速で繰り出される防御不可能の攻撃の前に私は成す術もなく敗北した。元気大傷した私は屈辱にも赤ん坊の姿となってしまい、再び戦える体になるまで養ってもらうカモを探していたが、私を拾った老夫婦がまさか市井に隠れる絶世の高手だったーー)
そう、小さくなって戦力が大幅にダウンした炒飯神太郎を保護したおばあさんとおじいさんはそれぞれ少林寺絶技の金鐘罩と火雲掌の使い手でした。彼らほどの人物がいかに日本に流れ着いたが、ある意味炒飯神太郎より謎かもしれません。
(私はチャーハンを提供する代わりに彼らから技を教わり、一年かけてベストコンディションに整えた。リベンジの時が来た。私は前回の失敗を反省し、作戦を立てた。炊翁の力は確かに強大であった。それゆえか驕りと甘さがみられた。私にとどめを刺さなかったし、近辺の貧民を憐れんで炊き出しを行っている模様。そこを攻める)
そこから炒飯神太郎の無慈悲な復讐劇が始まりました。
(再び旅に出た私は途中で出会った人間にチャーハンを食させ、チャーネットで制御することで私だけの兵隊ーー炒飯軍団を結成した。個人の強さを多数の暴力をもって叩き潰す、古今不変の戦術だ。炒飯軍団を目にした炊翁はかなり動揺した。慈悲深き仙人様は知り合いに手を出せぬようだ。ふっ、まったく生ぬるい、やはり炊き込みご飯などを作る奴はだめだ。物事に対してパラパラに仕上げたチャーハンのようにドライでなければならない、私の一貫とした処世術だ)
突如処世術を語り出す炒飯神太郎、自己啓発系新書でも出版するつもりでしょうか?
(炒飯軍団で炊翁の体力とメンタルを削り、さらに炒飯少年団で奴の炊き込みご飯をチャーハンに作り替えて補給を断つ、我ながら完璧な作戦だった。最後は私の顫拳が奴の頭蓋骨を砕き、勝利を収めた。チャーハンは炊き込みご飯より優秀であることを証明したーー)
炒飯神太郎が勝利の余韻を噛み締めるうちに、川の向こうにおばあさんとおじいさんの家が見えてきました。旅の終わりが近い。
「よいしょっ」
戦利品の米俵を両肩に担い、軽功で岸に飛び移りました。乗り捨てされたイタガそのまま流されて行きました。
(御二人に米俵を渡して、打ち上げ会を済んだらこの国を出よう。中原に戻ったら今回の経験を生かしてもっと大規模な炒飯軍団を作り、今度こそ征西して炊き込みご飯勢を殲滅するぞ!)
頭の中で輝かしい未来を描きながら、炒飯神太郎は家のドアを開けました。
「師匠方!炒飯神太郎は見事に目的を果たして帰還しまーー」
と言いかけ、炒飯神太郎は固まりました。米俵が地面に転がしました。
「お、神太郎か、おかえりー。いいタイミングに帰ったね。お客さんがあんたに会いに来てるよ」
「いいご友人を持っていますな神太郎!大しておもてなしもできないというのに逆にご馳走を頂いちゃって」
おばあさんとおじいさんは食卓を囲んで、褐色に染まった米とに豆と刻んだ野菜が混じった料理をスプーンで掬って食べていました。料理は外見がチャーハンに似ているが、ふたりからチャーネットの波動を感じ取れない。
「いえいえこちらこそ、突如お邪魔したもので。むしろこれぐらいしか用意できなくて申し訳ない」
客人、ベージュのターバンと袈裟(一枚の長い布をぐるぐる回して着つけるタイプ)を纏った壮年の男ーー比羅夫が謙虚に言いました。彼の両傍には侍っている糜漓と彌迩は平静を装っていますが、両者とも目の奥に怒りの炎がメラメラ燃えている。
「やっと会えたね、炒飯神炒漢……いや、今は炒飯神太郎だったね?」
比羅夫は炒飯神太郎を見て、微笑みかけました。
「私の弟子……炊翁が世話になったようだね」
(続く)
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