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[コーチング]言語聴覚士の読書~1兆ドルコーチ~


病院ST(言語聴覚士)が読んだ本を咀嚼し嚥下する。リハビリセラピスト×ビジネス、時々短歌、自己啓発本の読書感想文。

[彼方より1兆ドルのコーチから伝わる教えが訓練室へ]

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はじめに[私と指導]

平々凡々な人生を送ってきた私にとって、人生で一番辛い時は?と尋ねられるなら間違いなく臨床実習と答えるだろう。そのはじめての連続は、わからないことがわからない、求められることがわからない、という苦い思い出だ。指導者の先生は初対面時に「君の前に2回連続実習中止になってるからがんばってね」という斜め上の励まをかましてくれるなかなか手厳しいタイプの方で、場所や担当者で左右されてしまう実習の難易度でいえばおそらく難しい方に入るものであったのではないかと思う。それでもなんとかクリアした実習の経験を活かして、私の新人及び実習生指導の共通テーマは言語聴覚士の仕事を面白いと感じてもらうことであった。その面白さの元は、私にとってはなんといっても評価-治療の仮説が的中したときであると言えよう。動作観察し、問題点をあぶりだし、検証した仮説が採択される。それを元に訓練アプローチを整え、動作改善を実現する。患者様の支援に成功したときの喜びは道徳的やりがいと合わせて大きな自己効力感に繋がる。それを学生および後輩には味わってもらいたい。その面白さを感じることで、さらなる業務へのモチベーションに繋がると信じているからだ。とはいってもその具体的な方策は、臨床と同じく現在進行形で模索しているのだけれど。臨床を含め、他者を主体とし、支え導くことは本当に難しい。


[ 1兆ドルコーチ エリックシュミット 他著]

ビル・キャンベルはアメフトのコーチ出身であり優秀な経営者である。Apple、Google、Amazon、Twitter…名だたる企業を鍛え、救い、成功をもたらした共通の師である。「人がすべて」であることを軸に「愛」を持ってチームを導く情熱的な男であった。その彼の教えが80人以上のインタビューで構成され、まるでドキュメンタリー映画のごとく展開されていく。彼らは興味深く、困難な状況に直面したとき「ビルならどうするか?」と考える。具体的なエピソードを交え、その教えが本書には詰まっている。
―どんな会社の成功を支えるのも、人だ。マネージャーのいちばん大事な仕事は部下が仕事で実力を発揮し、成長し、発展できるように手を貸すことだ。
ビルは「人がすべて」を体現し、人への「支援」「敬意」「信頼」を軸に置いた。「支援」とは成功するために必要なものを提供し、成長できる手助けをすること。「敬意」とは目標を理解し彼らの選択を尊重すること。「信頼」とは自由に仕事を取り組ませ決定を下させる、成功できると信じること。これを基盤に「全員がチーム・ファーストになる」「正しく勝利する」「問題よりもチームに取り組む」「常にコミュニティに取り組め」「リーダーは行動でその座を勝ち取る」と語られるように、彼の情熱的で、人好きで、率直な人柄が伝わってくる。その成功の源は、まさしく彼が人を愛し信頼し、人に愛され信頼される存在であったからであろう。正直さと謙虚さ、そして行動力。そのパワーに圧倒される一冊であった。


考察["人とともに"ある仕事]

本書で語られる教えは、チームを束ねるリーダーはもちろん、リハビリテーションに従事するセラピストの胸にも響くものである。人を「支援し敬意を示し信頼関係を気付く」、その上で成功をつかむ。これは、臨床でも同じである。患者様の回復に向け<支援>し、<尊厳>を持って対応し、相互に<信頼関係>を気付く。他職種と連携し共通目標に向け力を合わせる。そしてそのスキルとマインドを若手に伝達する。リハビリテーションはまさしく、人とともにある仕事なのだから。これをただの信念としておくのではなくいかに実践していくかが、この部門の成長可能性を高めるのだと考える。時に不当ともいえなくはない臨床実習の悪しき上下関係や、患者様への高圧的な態度を内省できないセラピストは実在している。どんなに高い治療評価スキルや、優れた手技を有していても、人に敬意を示せない、信頼関係を築けない"態度"は淘汰されるべきである。”態度”としたのは、その行動の要因は人ではなく、あらゆる環境と相互作用して存在していると考えるからである。だからこそ、個人ではなくチーム全体での環境づくりを心掛けたい。ビル・キャンベルは傲慢なスターを受け入れ、彼らが最大限のパフォーマンスを発揮できるよう支援した。個人の到達目標を支援することで、誰もがチームの利益を最大限に考え共通目標に従事する。その教えを、いま、目の前のリハビリテーション室で、スタッフルームで、実践していく必要があると感じる。

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