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お師匠さんから得たもの

こないだM吉先生と話していてこんな話になった。


「我々が、大学院の指導教員から得たものは何だろう?」


院生の指導に限らず、学生を指導するのはとっても難しい。

日本式の「看取り稽古」は現代では通用しない。俺の技を盗みやがれぃ、てやんでぃってやつです。この場合、弟子は師匠の背中を見て育つ、というようなことになりそうです。


今は具体的に彼ら/彼女らの研究内容にこちらが積極的に関与しなければなりません。んー、ならないと感じています。


それで難しいのです。どこまで容喙するか?

研究内容から見て、このデータを使って、そのように分析すると、あのような結論が出て、それは新しいのではないかと頭の中でストーリーを描いて、そのようになるかどうかデータを集めて分析してみては?


このやり方、あまりやりたくないのだけれど、ついついやってしまっています。これだと、ほとんど堤のアイデアなので、論文書くときにクレジットに入れてほしくなります。実際心理学の論文って指導教員の名前を入れているようです。


そこで、この大分前の「ヒント」を出すように心がける。気分は意地悪。知っていることを全部は教えない。あの論文読むべきです。あなたが出しているこのデータ、もう少し操作をして、主張に客観性を持たせることはできないか、などなど。ひたすらことばを選ぶ。


先日、ある論文の査読者に出していただいたいくつかのコメントは、そのコメントに対する反論を考えているうちに研究が進むというもので、最初読んだときには、「けっ! 素人め」と不埒にも思ってしまいましたが、まともに答えようとするとこれが難しい。


こういうようなコメントを、自分の学生にできる先生ってすごいなと思います。


ところで、自分たちが学生だった頃のことを思い出しますと、我々のお師匠さんは、そこまで手取り足取りでもなく、まあ論文書いたら見てくれましたが、実は何を指導されたかあまり覚えていません。


学部の時の指導教員からも、なんやったら高校、中学の先生からも、何かを習っているのだけれど、内容的なことについてはあまり覚えていない。唯一世界史の先生だったS先生が、サド侯爵のことを話すときに、「なぜなら彼はサドだったからです!」と高らかにほくそえむ(おかしい)姿だけは強烈に覚えていますが。S先生、お元気かなぁ。いろいろ教えてもらったはずなのに、世界史の学内偏差値38とかだったよ。わっはっは。


他の方はどうなんでしょう。あの論文のこの部分は、先生のコメントで劇的に改善したぜい、みたいなことってあるんでしょうか。


でも、確実に先生から得たものというのはあって、僕の場合は、人生のいくつかの重要なポイントで、できる限りまっすぐ研究者の道に進むように導いてくださったことは、なんぼ感謝しても感謝しきれないものがあります。


修士のときに退学届を持って行ったことがあるのですが、「まあやめなさんな。修士なんて今日日資格やで」みたいなことを言われて、踏みとどまりました。その瞬間と、博士に行きたいと言ったときに、「分かりました」と言ってくださった瞬間がなければ、僕はいま何をしていたか分かりません。


これは、具体的にお師匠さんにしていただいたことですね。目に見える形で、明らかに恩がある。


一方、もうちょっと抽象的というか、精神的というか、学問に対する姿勢というか、そういうところでは、とにかく慢心するなということを教えてくださった気がする。常に「卒業しても研究するように。論文書いてなかったら、会っても「どなたでしたっけ?」って言うからな」とか脅されてたし、ご自分でも定年間際になっても査読論文を書いていらした。


見習わなければならないと思います。結局、具体的な指導よりも、包括的(comprehensive)なというか、そういうような指導の方が、あとあと残っていたりするのだな。


さて、自分は、自分の学生たちに何をしているでしょう。何かできているのかな。考えても詮無いことではありまして、結局、彼ら/彼女らは堤がどのような生き物であっても、それなりに何かを得るのでしょう。そしてそれは、十人十色なのでしょう。


あ、それでいいのか。


結局、問題は具体的に指導する程度の問題に帰着するわけです。

今日も2本論文のドラフトを添削しました。明日も自分の学生の原稿1本、外部の博士の方のものを1本見る予定。なんとかその方々の研究が前に進むようなすてきなコメントを思いつきますように。


とりとめない文章だなぁ。このテーマについてはまた考えて書きたいと思います。


本日の音楽は、"crispy camera club"。京都出身のインディーズバンド。メロディアスでいいですよ。最近くるりの佐藤さんに邦楽を知らせようみたいなラジオのコーナーがあって、そこで紹介されていました。





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