明けない夜と止まない雨、詐欺っ子たちに捧ぐララバイ

凄い体験をした。
「特殊詐欺」まさか自分が!と被害者は誰しも臍を噛むのだろう。被害者というなら、それは仕掛けた側の末端の人を含めるべきだ。

「特殊詐欺」は、差別と格差の歪みが創造した生き延びるための獣道「持たざる世代が持てる世代から財を抜いていくカマイタチ」
闇バイトに応じたら最後厳しい汚れ役を強いられ、しゃぶり尽くされる。末端の報酬が人生を賭けるほどとも思われない。なぜ分が悪過ぎる人として最低の生業を、自らを救う唯一の道として選択したのか。お金が必要だったとしても他になかったのか。彼、彼らからすればなかったのだろうとは思う。

わたしが関わったのは有名人を騙ったLINEの投資詐欺であり、ひとりでデバイス操作をしていたのかもしれない。実像もなく言葉のみで人の心を操る凄技は瞠目に値する。丁寧に時間をかけ登場人物には各々ストーリーがあり、無知を嗤わず惜しみない振りで知識を与え、感謝と尊敬の念を抱かせつつ、最期は社会的抹殺の恐怖に慄かせ搾り盗る精密な展開。その時のバイオリズムや悩みの波動が触れれば一溜まりもない。

わたしの洗脳地獄はとある綻びを引き金に一気に崩壊した。詐欺に遭ったと自覚ができたときの陽光の眩しさと解放感と安堵感は忘れない。季節はちょうど冬から春に移ろうとしていた。時の運の怒涛の流れに巻き込まれ、その同じ流れによって再び岸に戻されたという感じだ。財を失ったという過酷な現実は変わりないが、陽の当たる世界に蘇りを果たしたという圧倒的な幸福感に、何にともなく手を合わせた。

残務処理や気持ちの整理に過ぎていく時間の中で、件のグループLINEや公式LINEのアカウントのプロフ画像が別人に変わっていた。次のミッションが稼働したのだろうか。彼、彼らはいつまで続けるのだろう。失った財がせめて人生を立て直す資金にでもなれと願わずにはいられない。しかしそんな戯言は浅はかな夢想に過ぎない。

若い人が特殊詐欺に手を染めるのはこの社会に寄る辺がないからだ。この社会がアテにならないからだ。見知らぬ他人の人生を金に換える片棒担ぎの罠にかかり、それしか自分が助かる道がないと信じ、これからどんな希望が待つかもしれない人生を安い報酬と悪貨と絶望に塗れてどこまでいくつもりなのか。彼、彼らにこそ救済や呼びかけが必要なのではないだろうか。
この社会はその使命を果たしているといえるのかを今一度考えなければならない。

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