見出し画像

水色の雨と吸血鬼(#089)

小学校5年生の私はかぎ編みに夢中になっていた。当時は「編みぐるみ」なんてオシャレなものはなく、ひたすらショールのようなものを編むだけ。でもそれが楽しくて楽しくてしょうがなかったのだ。

同じクラスの・いつもつるんでいた友達の一人が、ホラー漫画に夢中になっていた。典型的な「怖いもの見たさ」女子だ。その頃じゃなかったかな「口裂け女」が社会問題になって、うちの小学校でも大ごとになってたのは。私は特にホラー好きではなかったけれど、その子から吸血鬼の漫画をかりて読んだ。作者・題名は覚えていない。でも、はっきり覚えている絵(イメージ)がある。大雨の日に地面を流れる水に混じって大量の血液が流れ、それが棺桶に入っている吸血鬼に届く。その血液が口に入って飲み込むと吸血鬼は生き返るのだ。生々しくて、異様な光景だった。その光景と、八神純子の歌う「水色の雨」が一体になって私の記憶に残っている。これは二つで一つ。分けられない。

私が放課後・毎日のように通っていた毛糸やさん。そこの店主のお姉さんと仲良くなって編み方・毛糸について色々教えてもらった。その店内のラジオから繰り返し流れていたのが「水色の雨」だった。

「あ〜〜〜〜〜〜〜、みずいろの、あ・め〜〜〜〜〜、わたしのかたをだいてつつんで、ふりつづくのぉ〜〜〜〜〜〜〜〜〜」

私はこの歌が怖かった。その時読んでいた吸血鬼の漫画とぴったりのイメージだったのだ。降り続いた雨があの女性の肩を包んで血を吸い取って流れていったんだ・・・と勝手にふたつの物語をひとつにまとめ上げて・・妄想は止まらなかった。その間、私の手も止まらずショールを編み続けた。妄想をさらにパワーアップするかのように、この頃よく雨が降っていたのだ。傘さして毛糸屋さんまで歩いて行く。通りが川のように水で溢れている。私はそこに血液が流れるのを妄想した。はやく行かなきゃ・毛糸やさんに着くまでどうか吸血鬼よ目を覚さないでおくれ。おおい被さるようにあのうたが聞こえてくる「あ〜〜〜〜〜〜みずいろのあ・め〜〜〜〜〜〜〜」

今でも・たまに・かぎ編みをする。そして私の心は小学5年生に戻り、雨の匂いと、通りに溢れる水と、血液・吸血鬼、そして水色の雨・・・。

そう、あなたはもう「水色の雨」と吸血鬼を切り離すことができなくなっている・・・。
あなたの想像力がわたしの武器。今日も読んでくれてありがとう。

えんぴつ画・MUJI B5 ノートブック

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?