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全身麻酔の感想パート3(#256)

ベッドを押して移動する「ベッド運転」専門のスタッフが病院にはいる。

私は長期入院をした経験があるので、この「ベッド運転手」にはいつも感心した。入院未経験者のために説明すると、運転手はベッドの足の側に立って、押してベッドを運転する。だから、ベッドの患者は、運転手の顔見ながら、その後ろに広がる天井と横に見える壁が後ろから前に流れていくのを見ることになる。

あれは何て呼ぶのかな。ベッドの左右の車輪の部分に、カチンカチンと音立ててギアチェンジするみたいな操作する機能がある。それを使って、ベッドを細かく動かし、上手にエレベーターに入れる。違う階に行ったり、長いトンネルような通路を進んで、病棟からレントゲンなどの検査が受けられるビルまで、安全に押して連れて行ってくれるのだ。

これは、なかなか心地よい体験だ。入院中には感じられない風の動きを顔に感じる。動く景色を見ているだけで、身が軽くなったような錯覚が起きる。

通常は、看護師はその仕事はしない。あるとき人手が足りないのか、途中まで看護師にベッドを押してもらった時があった。そのとき初めて知った。「ベッドの運転にも上手い下手があるんだ」と。ベッドをまっすぐ押すだけでもスキルが必要なことなんだ、と。

私が重体で入院していた時は、ベッドでの移動も大掛かりだった。モニターの器具のついたポールを二つベッドに取り付け、加えて点滴のポール二つ取り付け、ベッドの周りに金属の森ができる。それを運転手はスムースに運転し、移動してくれるのだ。素晴らしい。



こっからは昨日の続き。
私のベッドを運転してくれる中年インド系男性は、ジェントルマンの態度で無事にトローリー・ベイまで連れてきてくれた。「トローリー・ベイ」って呼ぶんだよと、彼が教えてくれたのだ。一般的にトローリー・ベイで思う浮かぶのは、スーパーマーケットのショッピングカートが重なって並んでいる様子だ。まあ似てるか。

ここについて、ハッと思った。「私はここを知っている」と。でも内装が変わった。看護師や医者が出入りする区画に大きなガラスがついた。そして、部屋になった。前は、カウンターだけで仕切られた区画だったのだ。これってコロナ禍の時についたんかな~。

長期入院してた時に、私は何度もここに来た。膀胱カテーテルをつけているにもかかわらず、尿意が強く起きて、トイレに行きたいんだと看護師に言っても信じてもらえなくて、泣きそうになったことも、ここで起こった。いろんなことがあったな~。でも、覚えているのは、いいことだけだもんな~。辛いことは忘れるな~。特に肉体的に痛かったこと、苦しかったことは、忘れるのがはやい。心理的苦痛はなかなか忘れられないけどね~。

壁の時計は朝の9時45分をさしている。出勤してきたばかりの医者・看護師が背中に小さなリュックを担いで、テイクアウトのコーヒーを片手にゆっくり現れる。早めにきて働いている人たちは彼らの1.5倍くらいの「ミッション顔」とスタスタ歩きをしている。こういうのを観察するのもなつかしい。スケッチしたいな~。そういう道具は手元にないし、何にせよ、これから手術なのだ。

ようやく、手術室前のこの小部屋に運ばれてきた。ここで、麻酔科医に会うのだ。今回は、2人。1人が70代くらいの男性ドクター。もう一人は30代の若い女性ドクター。彼女の名札には「麻酔科フェロー(Anesthesia Fellow)と書かれている。きっと「麻酔科専門医」になるための訓練を受けているのだろう。私の意識がある間は彼女がひとりでいろいろしてくれた。

例えば、点滴用の針を入れる。私は血管が細く点滴にふさわしい血管を探すのにいつも苦労する。今回初めて、超音波(エコー)を使って私の血管を探すのを体験した。そのモニターも私は見れた。「あ、この丸いのが血管ね。見える」と私は言った。すると彼女は「ほら、笑ってるでしょう?」と血管の部分を押して丸い形がジェリビーンの形になって笑ってる口みたいになった。オモロ。

その時、前回の全身麻酔の時に交わした会話を思い出した。あの男性も「麻酔科フェロー」だったのかな~、それとも看護師だったのかな~。「僕はソニーが大好きなんだ。ソニーの作ったものだったら枕カバーでも買うよ」と彼が言った。そして「体内に金属が入っている部分はある?差し歯、入れ歯などは?」といつものチェックの質問をした。「差し歯がひとつあります。あ・そうそう、これはソニーが作った差し歯なのよ」と私。「え?そうなの」と彼。一瞬でも信じた彼の素振りがオモロ。ソニー信者にとっては、ソニーという会社は差し歯に至るまで作ってると思えるのか・・・。

と思っていると、目が覚めた。手術は終わったのだ。

この続きはまた明日。あなたの想像力が私の武器。今日も読んでくれてありがとう。


えんぴつ画・MUJI B5 ノートブック

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