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黒い服(#129)
彼女はいつも黒い服を着ている。軽くウェーブのかかった黒髪が肩まである。年のころは30歳くらい。背はそれほど高くない。胸から上しか見えない場合が多いから。名前も知らない。でも、毛の長い黒猫を飼っている。時々その猫を窓辺で見かける。
いぜん、ヒッチコックの映画「裏窓」みたいに、うちのキッチンの窓から向こう側のキッチンの窓が見えることについて書いた。黒い服を着る彼女は私と同じ階の向こう側に住んでいる。メインの出入り口が別なので、廊下ですれ違うこともない。彼女がキッチンに現れた時しか見ない。もちろん、私がキッチンにいて窓の外を眺めているのが条件だ。
私の目標は毎朝4時に起きること。でも今のところ5時が精一杯。夏時間になったばかりだし、4時に起きるということは、実質3時に起きることになるので、まだ身体が時差に慣れてない。朝起きてのルーティンは決まっていて、白湯にレモンを絞ったものを朝一番に飲む。キッチンに入って作業をしているときは、窓の外を見ても、向こう側のキッチンは暗い。みんなまだ寝ているのかもしれない。
しかし、今朝は違った。あの黒い服の女性のキッチンに灯りがついていた。そこには鮮やかなピンクのパジャマを着ている彼女がいた。口が動いているので、私には見えない同居人と話をしているのか、歌を歌っているのか、やや真剣な眼差しをしている。いつも黒い服を着ている人がピンクで現れると新鮮だ。そして正直なところ、彼女がピンクのパジャマを着ているのを見て・初めて「ああ、いつも黒い服を着ていたな」と思った。それまでは、服の色なんて特に気にしていなかったのだ。
私も黒猫を飼っていた。そのころは黒い服ばかり着ていた。猫の毛がついても目立たないからだった。なので、もしかしたら彼女もそういう理由で黒い服を着ているのかな・・・単に職場の制服(あるいは黒い服を着てくださいと言われている)なのかもしれない。
彼女のワードローブの中をそっと開けてみる。「え?服が何もない?」いや、違う。ぜんぶ黒いので一瞬何もないかと見間違えたのだ。ブラウス・パンツ・スカート・ドレス・コート・・・全部真っ黒。下のラックにはヒールとスニーカー、ぜんぶ黒。あ、猫がそこにいた。そこでくるまって寝るのが好きなんだね。しかし、引き出しを開けると話は違う。引き出しの中は、色のオンパレードだ。彼女は1週間まいにち違う色のパジャマを着て寝る。ぴんく・きいろ・あか・みずいろ・きみどり・おれんじ・むらさき。良い夢を見るためにパジャマだけは色とりどりなのだ。ピンクのパジャマを着て眠った夜にはどんな夢をみるのだろう。
オカメインコを2羽飼っている今の私は、無意識にボーダーシャツを買うことが多くなった。理由は鳥かごを登るように、ボーダーだと腕から肩へ登りやすいんじゃないかと勝手に思っているからだ。まぁ、いらんお世話だな。私のナイトウエアも横縞で「囚人服」と夫に言われている。囚人服を着て眠る夢の中で、私は自由に飛んでいるのさ。
あなたのパジャマは何色?どんな夢をみるのだろう。あなたの想像力が私の武器。今日も読んでくれてありがとう。
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