見出し画像

「寺田克也+キム・ジョンギ イラスト集」を買った<続き>(#207)

昨日の続き。

韓国人の絵描き、キム・ジョンギについてもうちょっと書きたい。インタビュー動画をいくつも見てると、早々に気づく。彼がとても気さくな人間だということ。ユーモアのセンスがあって、絵にするための小さなストーリーをしょっちゅう考えていること。そのために、常に周りを観察してること。

彼が絵の描き方を教えている様子は、まるで小学生同士が休み時間や放課後にやりとりしているようなフランクさがある。例えば、クラスで絵の上手な子に「ねえ、これはどうやって描いたの?」とたずねたら、「これはさぁ、最初にこれを描いて、その次にこう描いて、この時はこういうボックスをイメージして中に描くんだよ・・・」と、ノートに鉛筆で描きながら、とっても自然に気さくに説明していく。机を囲む周りの子供たちは「まるで魔法みたいだ」と思いながら、キラキラした目で見ている。そんな感じだ。

だんだん有名になってきて、オーディエンスが求めているものを描く仕事が増えて、パフォーマンスが増えて、「自分のための絵」を描く時間が減った。彼の初期のスケッチブックには、子供には見せられないようなエロい絵やグロい絵が結構出てくる。有名になるにつれて、そういう絵が描きにくくなったと笑いながら不満をもらした。

絵を描いている人はきっとわかると思う。キムにそういう変態嗜好があるというよりも(あるかもしれないが)、「こんなことも絵に描ける」という不思議さに取り憑かれることが多かれ少なかれあるのだ。それはどんなものでも絵に描ける、という自由さを意味している。

私が教えている若い生徒さんにも、グロいモチーフに執着している生徒は少なくない。皮膚が溶けて中の筋肉や骨が見える感じ、とか。それってさ、本当に自分でそれっぽいものが描けると、純粋に感動するんだよね。「わ、すげ〜、気持ちわり〜」って描きながら興奮する。ちなみに、私は自分のためにはそういう絵は描かない。その手の絵を描いて楽しむには歳をとり過ぎているのかもしれない。でも、教えるときに、顔が溶けてる絵とか、一緒に描くことがある。そして「あぁ、面白いな」って思う。「ここをこう描くと、溶けてるように見えるのか〜。少し影をつけるだけで、流れ出ているように見えるのか、すげ〜」とちょっとした形や影の暗さで大きく変わる不思議さに魅了される。

約2年前に、訃報がネットで広がった。キム・ジョンギが亡くなった。仕事でパリに行って空港で心臓発作に襲われる。47歳という若さだった。私を含め、彼を知っている世界中の絵描きが大きなショックを受けた。これからの活躍が期待されていたのに、本当に残念だ。キムが自分の絵を発展させて、さらに上手くなっていく姿を見たかったな。彼の描く姿やインタビューは今でもネットで見れる。

・・・・・
キム・ジョンギが自分のスケッチブックを見せながら、説明をし、実際にまっさらなページに描いて行く様子が見れる動画のリンクが以下。
日本語のキャプションをセットしてから見るよいいよ。
https://youtu.be/CzK4OGSXSWk?si=sKo9Sw1GkQr48MdU
・・・・・

キム・ジョンギの描く絵の特徴は、なんといっても、パースを有効に使っている点だ(寺田は「ジョンギ・パース」と呼んでる)。魚眼パースといろんなパースを組み合わせて一つの世界観を作る。まず、ひとりの人物を描くことから始まって、そのとなり、後ろ、と増えていく。そうやって数珠繋ぎに描かれていく世界にはパースによる奥行きが必ずある。これって簡単にできることじゃない。

キム・ジョンギと寺田克也、どちらも線を使って絵を描く。一見似ているようで方向性は違う。寺田克也の魅力はその「デザイン性」にある。空白を使うのが上手い。エレガントという言葉が似合う。寺田のイラストに必ず出てくる「女の子」は神秘的、魅力的だ。キムの描く人物はよく描けているけど、神秘的というより、ユーモアに富んでる。群衆を動きをつけて描くのが上手い。


***
寺田克也
イラストレーター、漫画家。岡山県出身。ゲームやアニメから実写映画まで多くの分野でキャラクターデザインを行っており、日本国外の作品にも参加している。
***

この二人が作った本を見ていると、気持ちが子供に戻って、お絵描きしたくなる。こんなふうに自分も描きたいとペンを握って紙を引っ張り出して描きたくなる。うん、この夏休み、いっぱい落書きしよう。

あなたの得意な落書きは何?ブタさん?かわいいねえ〜。あなたの想像力が私の武器。今日も読んでくれてありがとう。

えんぴつ画・MUJI B5 ノートブック

いいなと思ったら応援しよう!